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1993年からの第1次女性記者セクハラ問題ブームを振り返る

 

【今般の福田財務次官セクハラ疑惑はデジャブである】 

 4月12日発売の『週刊新潮』における福田淳一財務省事務次官のセクハラ疑惑報道に端を発し、13日には音声データの公表、16日には福田事務次官による全否定発言、18日には福田次官の辞任表明、19日未明には被害者たる女性記者が所属するテレビ朝日による緊急会見、そして24日の福田次官の辞任閣議決定に至る約2週間、「#Me Too」運動の盛り上がりや、一部与党議員による火に油を注ぐ発言などもあり、女性記者セクハラ問題はブームとしての様相を呈している。

 

すでに、膨大な関連記事がマスコミやブログ・コミュニティの中で産出され、様々な主張が展開されているので、今回の事案についてオイラが後出しコメントをするつもりは無いが、敢えて言及するとすれば「デジャブである」の一言に尽きる。というのも、女性記者に対するセクハラ事案は、今に始まった問題ではなく、25年以上にわたって繰り返し報じられてきたからである。

 

男女雇用機会均等法が成立したのが1986年。それとほぼ同じ時期に、セクシャル・ハラスメントなる概念が米国から輸入され、「セクハラ」が流行語となったのは1989年である。働く女性が増え、職場でのセクハラが社会問題化する中、1983年1~2月に週刊誌「サンデー毎日」が女性記者へのセクハラ事例を3例立て続けにスクープした。

 

同年12月には、現職次席検事による女性記者へのセクハラ事例も報じられ、1995年7月には、日本新聞労働組合連合新聞労連)が「セクシャル・ハラスメントに関するアンケート調査結果」を公表している。オイラは、1993年から1995年にかけての時期を、「第1次女性記者セクハラ問題ブーム」と呼んでいるが、今回は、25年前にブームについて振り返ってみる。

 

【1993年の警察関係者による女性記者へのセクハラ事案】

 毎日新聞社発行の週刊誌「サンデー毎日」1993年1月31日号において、『衝撃スクープ 女性地元記者激白「官舎で私の手をさすり……」』『「らつ腕」「仕事の鬼」の評もある-神奈川県警本部長が「破廉恥スキャンダル」』という大きな見出しを掲げた6ページの記事が掲載された。

 

この記事は、55歳の神奈川県警本部長が、前任の福島県警本部長時代に、地元の女性記者を夜間呼び出して官舎で会ったり、誘いの電話をかけるなどのセクハラ行為を行っていたとする内容のもの。本件は全国紙でも大きく報じられ、この本部長は、警察庁長官から注意を受け、事実上、引責辞職に追い込まれた。

 

神奈川県警本部長によるセクハラ事案を報じた3週間後、同じく「サンデー毎日」1993年2月21日号で、今度は、「衝撃スクープ第2段 石川県警 広島県警 署長から一線警官までの“わいせつ行為”」「全国紙、地方紙女性記者の受難!」という見出しで4ページの記事が掲載された。

 

広島県警広署の署長が新年会で、中国新聞の女性記者の胸にさわるなどのセクハラ行為をしていた疑いがあること、また、石川県警の巡査部長が、読売新聞の女性記者とスナックで飲んだあと、記者のマンションに上がりこみ、抱きつくなどのセクハラ行為をしていた疑いがあることが報じられた。

 

これら警察関係者による女性記者へのセクハラ事案が相次ぐ中、1993年3月に兵庫県警が作成した「セクハラ防止マニュアル」において、女性記者への対応手引が記述され、話題となった。このマニュアルでは、一連のセクハラ事案について、女性記者を「記者」としてみるのではなく「女」として見ていることに起因する、と分析している。

 

そして、男性記者以上の「付き合い」や「いわゆる面倒見」が見られる、▽誤解を招きやすいにも関わらず、私的な場面で一対一で対応している―と指摘。女性記者との対応に当たっては、一記者としての「人格」「立場」を十分認識したうえで対応するようアドバイスしている。

 

さらに、これまで表面化したセクハラ疑惑の多くが、飲酒のうえでの出来事だったことから、改めて飲酒の仕方について注意している。

 

【地検次席検事によるわいせつ行為】

 1993年12月には、秋田地検の次席検事(51歳)が女性記者にわいせつ行為をしていた疑いが発覚した。これを報じた写真週刊誌などによると、取材のために次席検事の官舎を訪れた女性記者を官舎内に入れて押し倒し、胸を触るなどしたという。次席検事は、翌年1か月の停職処分を受け、最終的に、本人の申し出により辞職した。

 

このようにセクハラ報道が続く中、朝日新聞が発行する週刊誌「AERA」1994年1月24日号では、「セクハラに泣く女性記者」と題する記事を掲載。▽たびたびさわられる。『見せろ』『やらせろ』とも言われる。▽警察との懇親会に遅れていったら、四、五人に囲まれてさわりまくられた。▽福島県のある記者は、警察署内で副署長に「これ、あげる」とコンドームを渡されて唖然とした。▽チークダンスの時、服の上からブラジャーのホックをはずされそうになった。▽車で送ってもらう途中で、キスをされそうになった。などの事例が紹介され、女性の我慢、あきらめがセクハラを助長しているとまとめている。

 

毎日新聞」1994年4月21日朝刊(大阪本社版)では、4万号発行記念の本社女性座談会を企画特集として掲載し、80年から93年にかけて入社した同社の女性記者11名が、男社会の壁、女性記者の視点、結婚・子育て、などについて論じている。セクハラについては、「夜回りの時に手を握られた、抱きつかれたなどの話はよく聞きます。私も刑事にアダルトビデオを一緒に見ようと誘われた。」などの被害の実態が赤裸々に語られている。

 

新聞労連によるセクハラ調査】

 1995年7月には、日本新聞労働組合連合新聞労連)が、「セクシャル・ハラスメントに関するアンケート調査結果」を発表した。加盟する85単組4万人の組合員を対象にアンケート用紙を送付し、回答のあった約4千人の解析結果をまとめたものである。この調査結果は、マスコミ・出版・広告業界情報月刊誌『創』1996年9月号に収載されている。20年以上昔の調査であるが、興味深いので、結果の概要を転記する。

 

(注)この調査は、新聞労連加盟の新聞社等の社員(組合員)を対象としたものであり、新聞社等の内勤の事務職員や技術職員等も含まれており、対象者は記者職だけではない。また、組合員が対象であり、いわゆる管理職は調査対象外である。

 

この調査では、次の10項目について、(1)セクハラと思うか否か、(2)自分が実際にされたことがあるか、(3)自分が実際にしたことがあるか、を男女別に集計している。

 ①性に関する冗談やからかい等(どうして結婚しないのか、円満退職等含む)

 ②食事・デートへの執拗で断り切れないような誘い

 ③意図的に性的な噂を流す

 ④個人的な性的体験等をたずねる

 ⑤周囲が嫌がっているのに、個人的な性的体験等を話したりする

 ⑥ヌード写真やポスター、水着写真、わいせつ図画の配布や提示

 ⑦性的な含みのある手紙や電話

 ⑧いやらしい目で見る

 ⑨身体への不必要な接触(肩をもむ、髪に触る、お尻を触る等含む)

 ⑩性的関係をもつことの誘い・強要

 

(1)セクハラと思うか否か 

(「はい」の回答率 男/女の順。男性回答者3297人、女性回答者661人中) 

 

 ①性に関する冗談やからかい  55.1%、63.2%

 ②食事・デートへの執拗な誘い  54.1%、56,4%

 ③意図的に性的な噂を流す  67.8%、74.9%

 ④個人的な性的体験を尋ねる  60.7%、67.9%

 ⑤個人的な性的体験を話す  56.6%、58.1%

 ⑥わいせつ画等の配布や提示  48.5%、53.1%

 ⑦性的な含みのある手紙や電話  46.0%、71.7%

 ⑧いやらしい目で見る  36.4%、52.3%

 ⑨身体への不必要な接触  72.4%、80.6%

 ⑩性関係を持つことの誘い・強要  75.0%、80.8%

 ⑪無回答  15.4%、7.4%

 

 ⑦と⑧の項目で、男女間で認識のギャップが認められる。

 

(2)自分が実際にされたことがあるか

(「はい」の回答率 男/女の順。全体で男性回答者133人、女性回答者397人中)

 

 ①性に関する冗談やからかい  48.9%、68.5%

 ②食事・デートへの執拗な誘い  9.0%、25.4%

 ③意図的に性的な噂を流す  28.6%、13.9%

 ④個人的な性的体験を尋ねる  41.4%、29.0%

 ⑤個人的な性的体験を話す  17.3%、22.4%

 ⑥わいせつ画等の配布や提示  14.3%、23.7%

 ⑦性的な含みのある手紙や電話  6.0%、11.1%

 ⑧いやらしい目で見る  12.8%、25.9%

 ⑨身体への不必要な接触  23.3%、57.9%

 ⑩性関係を持つことの誘い・強要  6.8%、13.6%

 

女性の約6割(397人/661人)が何らかのセクハラを受けた経験をもっている。内容は、「性に関する冗談やからかい」68.5%、「身体への不必要な接触」57.9%が多いが、「性関係を持つことの誘い・強要」も13.6%あった。

 

誰がセクハラ行為を行ったかという問では、女性の場合、「仕事上の先輩後輩」が49.9%と半数近くを占めた。また、「直属の上司」は36.5%、「その他の管理職」が28.4%である。一方で、「取材先の相手」も33.9%に達しており、女性記者の抱える問題点を浮き彫りにしている。 

 

(3)自分が実際にしたことがあるか 

(「はい」の回答率 男/女の順。全体で男性回答者374人、女性回答者26人中)

 

 ①性に関する冗談やからかい  64.7%、84.6%

 ②食事・デートへの執拗な誘い  6.7%、7.7%

 ③意図的に性的な噂を流す  2.7%、7.7%

 ④個人的な性的体験を尋ねる  2.7%、7.7%

 ⑤個人的な性的体験を話す  8.0%、3.8%

 ⑥わいせつ画等の配布や提示  18.7%、7.7%

 ⑦性的な含みのある手紙や電話  3.2%、0%

 ⑧いやらしい目で見る  30.5%、7.7%

 ⑨身体への不必要な接触  12.0%、19.2%

 ⑩性関係を持つことの誘い・強要  3.7%、3.8%

 

何らかのセクハラを行った経験は、男性で11.3%(374/3297)、女性で3.9%(26/661)である。セクハラを受けたことがあると回答した女性が約6割であるのに対し、セクハラをしたとする男性は11.3%に過ぎず、男女間で認識の差異が認められる。

  

【おわりに】

  女性記者へのセクハラが初めて大きく取り上げられたのは、1993年のことである。男女雇用機会均等法の施行から数年が経過し、究極の男性社会であるマスコミの世界にも、徐々に女性社員が増えはじめた時期である。今回、1993年から数年間の「第1次女性記者セクハラ問題ブーム」におけるセクハラ事案に関する報道や関連記事について振り返ってみた。

 

 この第1次ブームの時期から現在に至るまでに25年間もの歳月が流れ、一層女性の社会進出が進んだ。男女共同参画推進のための種々の施策が取り組まれているものの、男女性役割固定観念潜在的女性差別意識は根強く残り、男女間の賃金格差、就労女性の家事・育児負担は依然として大きいのが日本社会の現実である。

 

また、今般の福田財務省事務次官によるテレビ朝日女性記者に対するセクハラ事案を見るまでもなく、この25年間で、セクハラを巡る状況(加害者たる男性よりも被害者たる女性のほうが糾弾されたり、興味本位の眼差しを受け被害者たる女性が二次被害にさらされることなど)も根本的には何ら変わっていない、ということが改めて確認できたのであった。