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女性記者セクハラ被害事件簿 第6号(加害者が自殺した二重に悲劇の事例①)

 

 

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 (※ 写真は、本件を取り上げた、『週刊新潮』2002年8月15/22日号の記事)

 

 

【加害者】北海道警察静内署長(59歳)

 

【被害者】北海道新聞静内支局の女性記者(25歳)

 

【明るみに出たきっかけ】

北海道新聞』2000年2月12日夕刊

 

【事件の概要】 

静内警察署の署長(59)が今月上旬、日高管内の知り合いの女性会社員の自宅に上がりこみ、ベッドに誘うなど悪質なセクハラ行為をしていたことが12日、分かった。

 

一人で帰宅しようとする女性に対して、署長は『送ってやる』と自宅まで同行、『お茶を飲ませて』と強引に上がり込んだ。署長はいやがる彼女に抱きついたり、寝室のベッドに横たわり、近くに来るように誘ったりしたという。 

 

北海道新聞(道新)2000年2月12日夕刊の記事によって、本件は表面化した。記事では、被害者について「女性会社員」と他人事のように書かれているが、実は、自社の記者だったのである。

 

週刊新潮』2000年3月2日号の記事では、背景状況も含めて詳報されている。

 

この署長は2月18日付で旭川方面本部の監察官室長に栄転することが決まっており、2月10日に、署長の栄転を祝して、記者など8人が町内の料理店に集まって送別会が開かれたのである。2次会を経て、午後10時頃、3次会の署長行きつけのスナックには、署長と女性記者2人だけが現れた。

 

普段は物腰が紳士的で猥談をするタイプでもない署長であったが、この日だけはいつもと様子が違い、盛んに記者に日本酒を進め、そのうち彼女を強引に引っ張り出して、彼女の腰に両手を回し、化粧が取れてしまうほど頬を擦り付けてチークダンスを踊ったという。午後11時過ぎに店を出た後に起こったことは道新の記事のとおりである。

 

週刊新潮』の記事によると、その日は、遠距離恋愛のボーイフレンド(札幌に住む同僚)が彼女の部屋に来ることになっており、彼が午前0時半頃、彼女の部屋を訪ねてみたら、セクハラの現場に出くわし、署長を追い出したとのこと。

 

道新の報道を受け、署長は監察官室長への内定が取り消され、12日付で道警本部警務部付に降格された。道警は強制わいせつ容疑で捜査を進め、免職を含む厳しい処分を検討していたという。

 

【顛末】

 署長の顛末については、時事通信の記事を抜粋する。

知り合いの女性(25)にセクハラ行為をしたとして警務部付けに異動させられた前北海道警静内署長(59)が22日、札幌市内の自宅で首つり自殺した。

道警によると、同日午後零時45分ごろ、自宅で首をつっているのを妻が発見し、119番通報。同市内の病院に搬送されたが、午後8時36分に死亡した。自宅には、道警本部長に宛てた遺書が発見され、「静内町民と同僚におわびし、責任を取ります。」と書かれていた。

時事通信社2000年2月22日配信記事) 

 

 次に、被害を受けた女性記者のその後の足取りは、『週刊新潮』2002年8月15/22日号に、道新関係者の発言を引用する形で紹介されている。 

 「彼女は静内支局から札幌に異動しています。事件直後、彼女は相当なショックを受けたため精神的な落ち込みがひどく、一時は本州の実家に帰っていたほどです。そんな彼女に対し、会社は“署長の自殺は君のせいではない。記事を書いたのは別の記者だ。北海道新聞社としての記事なのだ”と説得したそうです。」 

 

そして、精神的ショックから立ち直って職場復帰した彼女は、2001年秋に、部屋に侵入した署長を追い払った彼氏とめでたく結婚したようだ。

  

【ブログ主のコメント】

酔った女性記者を自宅まで送り届けて襲いかかった本事案は、本ブログで先日、女性記者セクハラ被害事件簿第3号で取り上げた石川県警の公安デカによる事例とうり二つの「送り狼」による犯行事件だ。

 

石川県警の事例では、巡査部長が事実関係を否定したこともあり何ら処分されることなくウヤムヤにされ幕引きとなったが、今回のケースでは、道警が免職を含めた処分を検討している最中に本人が責任を感じて自殺するというショッキングな結末となった。

 

実は、女性記者がセクハラ被害を受けた事例の中には、後日取り上げるが、今回と同様に加害者側が自ら死を選んだ別のケースが存在する。何ら責任を取らず開き直っている人間の屑のような加害者と比べるとマトモであるかも知れないが、命で償ったから潔いというものではないし、命で償うという形以外での責任の取り方があったのではないか、という気もする。

 

一つ言えることは、自死を選んだ加害者は、責任感が強く、基本的には誠実な人柄であったに違いない。ふだんはおよそセクハラとは無縁の実直で模範的なノンキャリア警察が署長まで出世し、さらに定年を前に最も高いポジションへの栄転を間近にひかえ、ついつい気が大きくなって衝動的に道を踏み外してしまったのであろう。

 

加害者側が自ら命を絶ったことに、被害を受けた側が自責の念にかられることもあるだろう。自分が被害を訴えなければ、加害者を死に追い込むことはなかっただろうに、と。被害者は、セクハラ被害を受けたショックに加え、加害者が亡くなったことのショックとの二重の悲劇に見まわれてしまいかねない。

 

 さらに、悲劇なことは、自死した加害者のことを慕っていた家族や同僚、知人などから、セクハラ被害者が逆恨みや根拠のない中傷を浴びせられ、二重にショックを受けている被害者をさらに追い込む、という不幸な連鎖が続くことだ。

 

おそらく、自殺した元署長の部下と思しき人物が、セクハラ被害者の実名をあげ、被害者と勤務先の道新を攻撃する2チャンネルの書き込みが、今なおアップされたままである。被害者名を削除した上で、引用する。 

北海道新聞がセクハラ事件を伝えたとき被害者は会社員(25歳)と報道し、北海道新聞記者であるという事実を隠匿して報道した のです。

その日は栄転する署長の送別会があり、日頃から署長に可愛がられていた女性記者『×××××』(25)は二次会に電話で呼び出されたのです。

二次会の席でも、その後の三次会のカラオケスナックでも女性記者は署長のそばで親密そうにしているのを多数の人に目撃されています。

その後、女性の部屋に署長が上がり込んだのは事実ですが、百歩譲って、署長が口説こうとしたとして、それをセクハラ行為として自分の会社が発行する新聞紙上で糾弾することがあまりにも行き過ぎた行為であることは明白です。

自殺した署長は誰にでも腰が低く、実直な人柄で、悪く言う人はいませんでした。 旭川に転勤する直前だったわけですから職務上の支配関係から性的関係を強要しうる立場にあったわけでもありません。

スケベ心はあったでしょうが、ただの酔っぱらいの口説き程度のことを針小棒大にペンの力でセクハラ事件にでっち上げて報道することが許されていいのでしょうか。

世間を騒がしたことを苦にして静内町民、同僚にお詫びの遺書を残して自殺された元署長が不憫でなりません。

静内町内では今回の北海道新聞の掲載記事に対して強い怒りの声が巻き起こっています。 北海道新聞の横暴は厳しく断罪されるべきだと思います。  

 

「自殺した署長は誰にでも腰が低く、実直な人柄で、悪く言う人はいませんでした。」というのは、おそらく、事実に違いない。実直であるからこそ、自らの命で償ったのであろう。自分が、自死した署長に部下として仕え、書き込み主と同じ立場にあったならば、たぶん、自分も、この書き込み主と同じ発想をしてしまうような気がする。

 

だけど、くれぐれも間違ってはいけないのは、セクハラ被害者には何ら落ち度はない。非があるのは、自死した元署長の方だ。元署長が、酒が入っての出来心とはいえ、こんなセクハラ行為さえしなければ、悲劇は生じなかったのである。

 

本件は、なんともやるせない事件であったが、せめてもの救いは、精神的ショックで休職した女性記者が、見事に立ち直り、様々な分野で幅広く取材して記事を書いておられることだ。道新は、署名記事制なので、彼女の活躍ぶりは署名記事から確認することができる。今や40過ぎのベテラン記者となっており、今後の一層の活躍を期待したい。

 

【予告】

次回の第7号では、読売新聞支局内で発生した、先輩男性記者が後輩の女性記者に起こしたセクハラ事案を紹介する。

 

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