女性記者セクハラ被害事件簿 第8号
前回の女性記者セクハラ被害事件簿 第7号では、読売新聞支局内でのセクハラ事案を紹介した。今回は、高知県警巡査長による地元高知新聞社女性記者に対するセクハラ事件を取り上げる。
【加害者】高知県警の巡査長(45歳)
【被害者】高知新聞社の2名の女性記者
【明るみに出たきっかけ】
2000年4月26日に、高知県警が処分の記者発表を行った
【事件の概要】
男性巡査長は、2000年3月24日午後11頃、同僚数人と飲食中のスナックに高知新聞社の1人の女性記者を呼びたした。約30分後に記者が帰宅のため乗ったタクシーに強引に同乗。巡査長はタクシー内でラブホテルに行くよう運転手に指示したが、運転手は無視。自宅前で降りた記者に抱きつくなどしたという。
被害を受けた女性記者が、同僚の別の女性記者に相談したところ、その記者も1998年秋頃、同巡査長から一緒に酒を飲んだ際に抱きつかれるなどセクハラ行為を受けていたことが判明。
2人の女性記者が上司に相談し、高知新聞社が3月末に県警に調査を申し入れて発覚した。
【顛末】
高知県警は、セクハラ行為を起こした3月24日付で遡って巡査長を停職6か月の懲戒処分とした。その後、巡査長が「依願退職の願届」を提出したのを受け、4月26日付で論旨免職とした。また、同席していた別の課の警部を所属長注意処分に、直属の上司と所属長を本部長訓戒処分にした。
巡査長は、「酒で気が大きくなり、理性を失ってしまった」と話しているという。
高知県警警務部長「警察を挙げて信頼回復に取り組んでいるこの時期に、不祥事を起こしたことは誠に遺憾であり、深くお詫びします。」
高知新聞社編集局長「女性記者の人権を踏みにじる悪質な行為で残念だ。」
【ブログ主のコメント】
繰り返される警察関係者による女性記者へのセクハラ事件。1993年に発覚した福島、広島、石川のケース(それぞれ、本ブログ記事「女性記者セクハラ被害事件簿」の第1号、第2号、第3号参照)は、まずは週刊誌でスクープ報道され、その後、全国紙などでも大きく取り上げられた。しかし、もはや話題性は著しく低下したのか、今回の高知のケースでは、全国紙でも東京本社版では掲載されておらず、大阪本社版での扱いに留まっている。(注:少なくとも読売新聞は、東京本社版でも報道されており、詫びて訂正。)
今回の高知の事案は、女性記者からセクハラの被害の報告を受けた社の上司が県警に申し出るという極々真っ当な対応をし、新聞社からの申し出を受け、県警が処分を決定するという、極々真っ当な経過を辿った。(ただし、一旦下した処分内容を、後日変更して厳しくしたという警察の対応には疑問が残るが。)
「女性記者からセクハラの被害の報告を受けた社の上司が県警に申し出る」のは「極々真っ当な対応」だと書いたが、この極々真っ当な対応が、新聞社と警察の力関係次第では、必ずしも容易ではないことは、過去のブログ記事(第2号、第3号)でコメントした通りである。2018年4月に発覚した財務省事務次官による日テレ女性記者へのセクハラ事案でも、官僚組織と中央メディアの力関係が争点となったが、女性記者は上司に相談したところ社として相手方に抗議するという真っ当な対応がなされなかったことは記憶に新しい。
また、セクハラ事件では、しばしば加害者が非を認めず開き直ることがあるので、処分も容易でない。この点、本ケースでは、上司への処分も含め、比較的重い処分がなされているが、その背景としては、この時期、全国的に警察組織の不祥事が社会問題となり綱紀粛正、信頼回復に取り組んでいた時期だったという時代的文脈も関係していたのであろう。
【予告】
次回の第9号では、大物政治家によるテレビ局女性記者へのセクハラを取り上げる。
【出典】
・朝日新聞2000年4月27日朝刊(大阪本社版)、2000年7月6日朝刊(高知版)
・毎日新聞2000年4月27日朝刊(大阪本社版)
・読売新聞2000年4月27日朝刊
【本ブログ内の関連記事】
女性記者セクハラ被害事件簿 第7号
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女性記者セクハラ被害事件簿 第6号
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女性記者セクハラ被害事件簿 第2号
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