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女性記者セクハラ被害事件簿 第15号

前回は、長崎市の部長が、女性記者にわいせつ行為をした後、自ら命を絶ったずっしりと重い事例について紹介した。今回取り上げるのは、新潟県の山間僻地の村で発生したセクハラ騒動である。

 

【加害者】関川村の村議(78歳)

 

【被害者】地方紙の女性記者(20代)

 

【明るみに出たきっかけ】

地元の新潟日報紙が報道

 

【事案の概要】

2007年6月21日、翌月の村議選に備えた写真取材に来ていた地方紙の20代女性記者に対し、関川村役場の議員控室で、78歳の村議が「キスしてやるから、こっちに来い」などと発言した。

 

セクハラ発言のあった2日後の6月23日に、新潟日報が報道したことにより、本件は明るみに出た。新潟日報社の取材に対し、当該議員は「そんなことはしていない」と反論したが、居合わせた関係者も発言を聞いていた。

 

【顛末】

同年7月3日、関川村議会は臨時会を開き、取材に訪れた女性記者にセクハラ発言をして議会の威厳を損ねたとして、78歳の村議に対して、議会で謝罪するよう、賛成多数で決議した。直ちに議長が謝罪を求めたが、当該村議は「発言は議会と関係のない個人的なことで、謝罪する必要はない」として拒否した。

 

決議案を提出した村議は、読売新聞の取材に対し、「村議のレベルがみな同じだと思われては困る」と話す。

 

臨時会が開かれた時点で、セクハラ発言をした村議は、記者の所属する社に対して既に謝罪済であり、記者にも今後謝罪するつもりとのこと。

 

【ブログ主のコメント】

「関山村ってどこやねん。」「どうして、こんなド田舎ジジイのセクハラ発言ごときで、村議会決議されたり、ニュースになるねん」と思われるかも知れない。

 

新潟県関山村は、新潟市の北東約60kmに位置し、山形県に隣接する典型的な山間過疎地域である。1970年には9500人を超えていた人口が、2018年4月現在の推計人口は5500人ほどまで減少が進んでいる。

 

2007年当時、関川村といえば「村八分訴訟」が注目を集めていた時期である。Wikipediaによると、2004年に開催されたイワナのつかみ取り大会において、運営責任者である集落の区長など地元有力者3名に対し、11名の村民が不明朗な会計処理や多忙(「準備や後片付けなどでお盆をゆっくり過ごせない」)を理由で運営不参加を告げたところ、村八分行為(ゴミ共同収集箱に施錠を行う、山菜採りなどに対して入会権を認めない、等)を受けたとして村民11名が有力者3名を相手取り提訴、逆に有力者3名は名誉棄損で反訴した事案である。本件に絡み、同大会に必要なイワナを寄付によって取得したにもかかわらず購入したように見せかけ、村から補助金を詐取したという不祥事も発覚したらしい。

 

根拠のない推測であるが、セクハラ発言を巡って謝罪決議がなされたのも、村八分訴訟をめぐる村内権力闘争の一環であったのかも知れない。

 

本件を最初に報じた新潟日報は、被害を受けた女性記者の所属を「地域紙」と記載している。もしかすれば、新潟日報の自社記者のことを、敢えて詳細を伏せて中立的・他人事的に記述していたのかも知れない。ただ、道新(どうしん;北海道新聞)、中日、西日(にしび;西日本新聞)などブロック紙に匹敵する有力地方紙を自認するプライド高き日報が、自社のことを「地域紙」と書くはずがない。おそらく、村上地域を中心としたローカル紙の記者に対する村議のセクハラ発言を聞いていた関係者が、日報にチクって記事になったのではなかろうか。

 

ともあれ、言葉は悪いが、田舎村における一村議のセクハラ発言が必ずしもニュースバリューとして高いものではない。全国紙3紙(朝日、読売、毎日)の中では、読売の新潟北版で掲載されただけである。たかだか地方版の掲載に留まるローカルネタであっても、全国紙のデータベースに収載されてしまうと、事案の概要と関係者の名前が半永久的に記録として残存され、衆人の目にさらされることになるのだ。 

 

【予告】

次回は、朝日新聞毎日新聞の20代女性記者が、高校野球強豪校の監督や選手から受けたセクハラ被害について紹介する。

 

【出典】

・『新潟日報』2007年6月23日朝刊

・『読売新聞』2007年7月4日朝刊(新潟北地方面)