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女性記者不倫事件簿 第10号(米国CIA長官の場合)

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(写真は、不倫関係にあった米国CIA元長官のペトレアス氏と、ジャーナリストのブロードウェル氏)

 

 

【男】米国CIA長官のDavid Howell Petraeus氏(60歳)(発覚時点)

 

【女】ジャーナリスト(軍事研究者)のPaula Broadwell氏(40歳)(同)

 

【明るみに出たきっかけ】

FBIの内偵調査を受け、CIA長官が辞任を表明した

 

【事案の概要】

2011年9月6日付でCIA長官に就任したDavid Howell Petraeus(デイビッド・ペトレイアス)氏は、イラク戦争やアフガン戦争で活躍した退役陸軍大将であり、軍部だけでなく、政界においても人望が厚く、軍出身の閣僚として将来は大統領候補になり得ると目されていた人物である。

 

そんなペトレイアス長官であるが、2012年11月9日に、既婚女性と不倫していたことを理由として突如CIA長官を辞職した。

 

相手の女性は、ペトレアス氏がアフガン駐留の司令官だったときに同行取材し、ペトレアス氏の伝記も出版していたジャーナリストのPaula Broadwell(ポーラ・ブロードウェル)氏である。

 

二人の出会いは、2007年にさかのぼる。ブロードウェル氏が、ハーバード大学ケネディ行政大学院の修士課程の学生だったときだ。同大学院で講演したペトレアス氏に、ブロードウェル氏が講演後に軍事行政を研究していると自己紹介したのが発端だ。ブロードウェル氏は自分の研究についてペトレアス氏に説明し、同氏はカードを彼女に送った。博士論文についてもアドバイスした。

 

ペトレアス氏が2010年、アフガニスタン駐留米軍司令官に就任すると、ブロードウェル氏は学位論文のための研究結果を本に出版することを決意した。アフガンでペトレアス氏の周辺を取材する異例の許可を受け、約1年間に6回アフガン入りした。

 

アフガニスタンでペトレアス氏はジャーナリストたちと一緒にジョギングしていたが、ブロードウェル氏もジョギング仲間の一人だった。学生時代、陸上競技を得意とし、後にトライアスロンの競技にも出た経験のあるブロードウェル氏は、ペトレアス氏と競り合う快走ぶりを発揮し、そのことが二人の距離を急激に縮めるきっかけとなった。

 

かくして、既婚の二人は、「禁断の恋」に陥っていったが、ブロードウェル氏の「嫉妬」によって破局を迎えることになる。

 

ブロードウェル氏は、ある女性がペトレイアス長官と不倫関係にあるのではないかと疑いを抱き、「恋のライバル」たるこの女性に脅迫メールを送りつけたのだ。女性は脅迫メールを受けとったことを匿名で米連邦捜査局FBI)に訴えた。FBIが捜査を開始したところ、ブーメランのごとく跳ね返り、ペトレイアス長官とブロードウェル氏自身の関係が発覚してしまったのである。

 

(ちなみに、ブロードウェル氏が「恋のライバル」と邪推した女性については、アフガニスタン駐留米軍司令官のジョン・アレン海兵隊大将とも「不適切なメール」をやり取りしていたことが発覚し、こちらについてもFBIが調査する騒ぎとなった。)

 

ペトレイアス長官は同僚に宛てた手紙の中で、辞任の理由について「37年に及ぶ結婚生活の後、私は不倫という大きな過ちを犯してしまった。これは夫としても、またCIAのような組織のリーダーとしても許されることではない」と述べている。

 

ある米当局者によると、米連邦捜査局FBI)はペトレイアス長官が、女性ジャーナリストと不倫関係にあるとの情報を入手し、国家安全保障上の危険の有無を見極めるために調査を行ったという。ブロードウェル氏の自宅も、FBIの家宅捜査を受けたようだ。ペトレイアス長官がブロードウェル氏に送ったメールや見せたノートが情報漏洩の可能性があることも判明した。ただ長官に不正行為はなく、捜査は、あくまで長官が不倫を理由に脅迫される恐れがあったためとしている。

 

二人の不倫発覚後の1か月間、米国の報道番組は、この話題で持ちきりだった。ただ、メディアの論調は、ペトレアス氏は私生活では過ちを犯したものの、イラクアフガニスタン駐留米軍司令官として活躍した英雄であることは間違いない、といったものが大半であった。オバマ米大統領も会見で、ペトレアス氏のスキャンダルが「彼のたぐいまれなる経歴」の中の「ほんの1つの過ちだった、ということに落ち着く」よう願っている、と彼を擁護した。

 

ペトレアス氏は2013年より、南カリフォルニア大学の教授を務めている。2017年にドナルド・トランプ政権が発足した際には、国務長官の候補の一人であった。

 

Wikipediaによると、2015年1月、FBIと司法省が、機密情報漏洩につきペトレアス氏の起訴を勧告、2015年4月23日、連邦裁判所はペトラウス氏に2年間の保護観察と10万ドルの罰金刑を宣告した。

 

【ブログ主のコメント】

スパイと不倫、情報漏洩の話題は、映画の世界でもリアルワールドでも枚挙に暇ない。ソ連国家保安委員会(KGB)はCIA工作員が美女に弱いことを熟知していて、ハニートラップ要員をワシントンに派遣していたようだ。ソ連崩壊後、CIAは初めて女性の民間人偽装工作員をモスクワに派遣したところ、ロシア連邦保安局(FSB)要員と恋に落ちてしまったという話題もある。

 

現場のスパイだけでなくCIAのトップの不倫も歴史上事欠かない。1950年代アイゼンハワー大統領のCIA長官を務めたアレン・ダレス氏と、女スパイ、メアリー・バンクロフト氏の関係しかり。70年代の激動期、CIAの外国首脳暗殺計画などの文書を公開したウィリアム・コルビー長官は離婚して若い女性と再婚している。

 

今回のペトレイアス長官とブロードウェル氏の事例については、ブロードウェルはスパイではなく、ジャーナリスト(厳密には、彼女は職業ジャーナリストではなく、研究者のようだ)であったが、いずれにしても、CIAのトップが、愛人に国家の安全保障にかかわる機密情報をいとも簡単に提供してしまうというのは、組織全体の危機管理意識の低さを見事に表している。

 

ともあれ、米国のケースと比較すると、わが国における女性記者がらみの不倫事案などスケールが小さすぎるように感じられる。わが国では、「西山事件」の判例が尾を引いているのか、安全保障がらみの情報が流出することはない。筆者は、不倫を肯定したり推奨するものではないが、女性記者が取材対象者と不倫をするのであれば、大物を相手に選び、特定秘密の保護に関する法律に抵触しない範囲の機密情報をドシドシ抜いていただきたいものである。