syakai-no-mado

社会ノマド、社会の窓、流浪しながら漂泊する社会を見つめます

女性記者不倫事件簿 第1号(前篇)

f:id:syakai-no-mado:20180522221934j:plain

 

 

一昨日まで、本ブログでは、連載企画「女性記者セクハラ被害事件簿」において、女性記者がセクハラやわいせつ事案の被害者となった20の事例について紹介してきた。セクハラやわいせつ事案とは位相が異なるものの、下半身トラブルという広義のカテゴリーでは共通する不倫問題も、女性記者を巡ってしばしば週刊誌などで報じられてきた。

 

今回からは、女性記者が当事者となり、過去に報道された不倫事案について振り返ることにより、マスコミの構造的課題について改めて考えていきた。

 

まずは、2007年1月に発覚した、財務省主計官と『AERA』契約記者の関係にまつわる事例から連載を開始する。

 

【男】財務省主計官の中川真氏(47歳)(当時)

 

【女】週刊誌『AERA』契約記者(40歳)(当時) 

 

【明るみに出たきっかけ】

週刊現代』2007年1月27日号が大きくスクープ報道した

 

【事案の概要】

クリスマスイブ前日の12月23日午後9時過ぎ、東京・港区のマンションの玄関から、一組のカップルが出てきた。ミニチュアダックスフントの紐を、男性が握っている。夫婦か、恋人同士のような親密な雰囲気だ。二人は表通りでタクシーを拾い、約2時間半後の深夜零時過ぎに帰ってきた。そしてそのまま一緒に部屋に入っていった。

 

二人は、その5日前にも一緒にいた。港区内のイタリア料理店で、何人かのグループでビールやワインを飲んで盛り上がり、午前1時過ぎに解散したあと、二人は10分ほど歩き、やはり彼女の部屋に消えたのだ。

 

「中川さんとAさんは2年ほど前にも不倫騒動を起こしているのです。このとき中川さんは大変な家庭争議になったんですが、Aさんとは連絡をとらないと約束し、奥さんに許してもらった。しかし実際にはいまも関係は続いていたのです」(財務省関係者)

 

 これは、『週刊現代』2007年1月27日号の「財務省エリート主計官と朝日新聞美人記者の不倫生活」という見開きの大きな見出しの記事の冒頭部分の引用である。

 

登場人物の二人とは、財務省中川真主計官(47歳)(当時)と、朝日新聞社が発行する週刊誌『AERA』の女性記者A(40歳)である。『週刊現代』の記事を基に、二人の経歴等について、さらに紹介する。

 

中川氏は、東大法学部を卒業後、1983年に旧大蔵省に入省。主流派である主計畑を歩み、「同期でも出世レースの3~4番に入る」と評されている。篠沢恭助・元大蔵事務次官(現・国際協力銀行総裁)の娘を娶り、毛並みもいい。

 

中川氏は当時、国家予算全体の調整権限を有する主計官の1人。計9名の主計官はそれぞれ担当省庁を受け持ち、中川氏は文部科学省などを担当、扱う額は文部4兆、科学1兆の計5兆円であった。『産経新聞』のインタビューに「主計官として私は文科省という連合艦隊の総司令官だという気持ちが必要ですね」と権力者意識丸出しの発言をしている。

 

一方、女性記者Aは、夕刊紙や週刊誌などのナンバー・ワンのスクープ記者として活躍した後、2005年にAERAへ契約記者としてトラバーユしてきた大物記者で、財務省をはじめ霞が関を主な取材の舞台にしていた。

 

当時は、政権交替前の自民党政権下で安倍総理の治世であったが、同じ時期に、政府税調会長の本間正明氏が、官舎に愛人と同棲していたことが発覚し、辞任に追い込まれていた。『AERA』2007年1月1・8日号には「ボロボロ税調 本間で安部が自滅する」という見出しで、財務省関係者の証言を基に、本間氏の旅費が二重払いされていたという記事が掲載されている。この記事の執筆者の一人がA記者であり、『週刊現代』の記事では、断定調ではないが、この証言をした財務省関係者が中川氏である可能性を暗にほのめかしている。

 

中川氏は2007年1月9日、朝からA記者の家を訪問しており、午後1時半すぎ部屋から楽しげに姿を現した2人を、『週刊現代』が直撃インタビューした。

 

-お二人はどういう関係ですか。

 

中川「まあ友人ですけど」

 

A「調べてもらえばわかりますが、いろんな人が私の部屋には来るんですよ」

 

-12月23日に中川さんが深夜訪ねていますね。

 

中川「でもその日はすぐ帰りましたよ」

 

A「いろいろ彼女の取材のお手伝いをしてるんです」

 

こんなやりとりをしていると、突然、中川氏がフラと倒れかかって気を失い、救急搬送されたのであった。

 

 

【ブログ主のコメント】

 『週刊現代』の記事は、不倫疑惑を本旨としたものではなく、「これは“西山事件”に匹敵するスキャンダルだ」という中見出しを掲げ、本質的な論点は、国家公務員の守秘義務違反により国益が損なわれうる重大疑惑である、という論調であった。

 

西山事件」やら、高級官僚・政治家と女性記者の「ハニートラップ」の問題については、後日の記事の中で取り上げる予定であるので、今回は深入りしない。

 

今回のコメントとしては、両人のその後の軌跡について触れることにする。

 

 まず、中川真氏。

 

2007年7月13日 近畿財務局総務部長

2008年7月4日 財務省大臣官房付

2008年8月1日 国際通貨基金に出向

2010年7月24日 財務省大臣官房付

2010年7月26日 国際復興開発銀行に出向

2014年7月12日 大臣官房審議官

2016年6月17日 内閣官房に出向

(内閣審議官    

   兼 まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官補

   兼 新国立競技場の整備計画再検討推進室総括審議官)

 

(出典)中川氏の経歴については、「スワンの夢」という謎のホームページを参考にさせていただきました。

http://www.dreamswan.com/Aflac01/P/Fsa/Mof/N01/Nakagawa-Makoto.htm

 

いかにも出来過ぎた感のある経歴は絶句ものだ。

 

不倫報道により政権の足を引っ張り、半年後には、事実上の左遷人事(?)で、森友問題で注目をあびたところの近畿財務局に出向。1年後に大阪から東京に戻った後、未だホトボリが冷めていないと判断されたのか、本省では勤務させてもらえず、計6年間、国際機関を2カ所渡る。

 

2014年夏、ようやく禊ぎが済んだのか、本省で審議官に就任。本省での仕事ぶりが評価されたのか、2016年には、内閣官房に出向して内閣審議官に着任。内閣官房ではいくつかの業務を分掌しているようだが、「新国立競技場の整備計画再検討推進室」では、「総括審議官」として、実質的に事務方のトップを務めている。

 

新国立競技場といえば、2012年11月にザハ・ハディドキールアーチ(流線型デザイン)が選定され、基本計画に着手し施工業者も決まっていたものの、総工費が当初計画を大幅に上回ることが判明するなどトラブルが続き、結局、ザハ案は2015年7月に白紙撤回となった。その後、再コンペがなされ、2016年6月、当初計画より1年強遅れで基本計画がまとまった。中川氏が総括審議官に着任したのは、白紙撤回、再コンペの混乱がひと段落し、本格的に工事がはじまる時期であった。

 

で、中川氏は、「新国立競技場の整備計画再検討推進室」では事務方のトップの地位にあるが、この推進室には組織上、彼には3人の上司が存在する。組織のトップは、杉田和博内閣官房副長官(安部政権権力中枢官僚序列No.2、警察官僚)、ナンバー2は、和泉洋人内閣総理大臣補佐官(安部政権権力中枢官僚序列No.3、建設官僚)、ナンバー3は、古谷一之内閣官房副長官補(安部政権権力中枢官僚序列No.5、財務官僚)、中川氏はその下に位置する。

 

ところで、新国立競技場の白紙撤回・再コンペ騒動の裏では、官邸と文部科学省が熾烈な権力闘争を繰りひろげていたことは有名な話だ。文部科学省が推進していたザハ案の計画を潰し、再コンペを推進した司令官が和泉洋人補佐官で、その官邸の方針に全力で抵抗したのが文部科学省の前川喜平事務次官であった。そう、出会い系バーに出入りしていたことを読売新聞に掲載され、そのことにブチ切れ、加計問題で政権批判に転じクビになったあの前川氏である。そして、前川氏の出会い系バーへの出入りをキャッチし、読売新聞に報道させた黒幕が、杉田和博副長官である。

 

10年前に、不倫騒動で安部政権の足を引っ張り、一旦、経歴にバツのついた中川氏であったが、主計官として文部科学予算を牛耳った経験があり、文部科学省に睨みが利くことから、政権の最重要案件の一つであるオリンピックメインスタジアムの整備計画の事務責任者として抜擢され、絶対権力者たる杉田和博副長官、和泉洋人補佐官両氏の意向を汲みつつ手腕を発揮しているのであろう。

 

ちなみに、中川氏の数年先輩にあたる福田淳一事務次官のご夫人は元文部事務次官、の高石邦男の長女であるが、二人の恋のキューピットを務めたのは、中川氏の義父にあたる篠沢恭助氏(元大蔵次官)である。さらに付言すると、前川喜平氏の16代前の文部事務次官にあたる高石氏は、1989年リクルート事件に関する収賄罪容疑で逮捕され、2002年最高裁判所で懲役2年6月、執行猶予4年、追徴金2270万円が確定した人物である。

 

なんとも奥の深い官僚組織であるが、それにしても、元大蔵次官の篠沢恭助氏は、自分の娘のダンナ(中川氏)が不倫騒動を起こし、また、自分が夫人を紹介までした18代後の財務次官、福田淳一氏がセクハラ発言で失脚した現実をどのような境地で見ているのだろうか。

 

【予告】

今回は、不倫疑惑の片方の当事者である財務省中川真氏の紹介だけで分量が多くなってしまい、「女性記者不倫事件簿」という表題からは逸脱している感も否めないが、次回は、本論に回帰し、もう一人の当事者である、週刊誌『AERA』契約記者Aの正体に迫ります。