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社会ノマド、社会の窓、流浪しながら漂泊する社会を見つめます

女性記者セクハラ被害事件簿 第18号

 

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【加害者】仙谷由人官房長官(当時)

 

【被害者】日経新聞アラフォー女性記者

 

【明るみに出たきっかけ】

週刊文春』『週刊新潮』の両誌が2011年1月13日号で報道

 

【事案の概要】

時は民主党政権下の2011年12月28日の夜。首相官邸内のホールでは内閣記者会との懇談会が開催されていた。

 

菅直人総理や仙谷長官や秘書官などに、記者やカメラマンを交えた“御用納め”で、ケータリングの軽食が用意され、100人ほどが集まっていた。

 

まず、『週刊文春』の記事を引用する。

 

「懇談会では『小沢(一郎)をぶっ潰せ!』という掛け声があがるなど大盛況でした。仙谷氏の周りには管首相を上回る数の政治部記者が集まり、彼の実力者ぶりを見せ付けました。上機嫌だった仙谷氏は、そのうち一人の女性記者をつかまえて、繰り返しセクハラ発言を始めたのです」(官邸記者)

 

被害に逢ったのは日経新聞政治部で、官房長官番を務めるMさんだった。(中略)

仙谷氏はMさんを隣の席に座らせ、お酒を注がせたりしていた。

 

「仙谷さんはMさんの肩に手を回して記念撮影もしていましたが、そのままMさんの胸に手が触れかねない勢いでした」(別の官邸記者)

 

そして仙谷氏は都内高級住宅街に住むMさんに、

「あんた、いいところに住んでるんだってな」

と探りを入れながら、下ネタを口にし始めたという。

「65歳はぜんぜん(アソコが)立たないからダメなんだよ」

 

政治部記者が解説する。

「仙谷氏は65歳の話をしていましたが、じつは彼は64歳で(笑)、自分はまだ元気なんだというアピールだったようです。その後も仙谷さんはMさんに向かって何度も『立つ』とか『立たない』というセクハラ話を繰り返していて、周りにいた記者はドン引きでした」

 

次に、『週刊新潮』の記事から。

 

彼女は大人の対応で、必死に受け流そうとしているように見えたという。だが、

「明らかにセクハラ。記者の間でも、普通の企業なら完全にアウトだと話題になった」(官邸担当記者)

 

仙谷氏代理人を通じて、「そのような事実はない」と否定。

「そりゃ、女性記者は長官番である以上、彼を“告発”しにいく。仙谷さんはそれを見越しているんでしょう」(前出担当記者)

  

【顛末】

仙谷氏は、『週刊文春』と『週刊新潮』の記事で名誉が傷つけられたとして、発行元の文芸春秋と新潮社に各1000万円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴。

 

東京地裁は2012年6月12日、「(仙谷氏の発言は)セクハラに当たると問題視されてもやむを得ない」と指摘、仙谷氏側の請求を棄却した。判決は、仙谷氏が当時、男女共同参画推進本部副本部長を務め、セクハラ根絶を推進する職責があった点も考慮し、記事に公益性と真実性があるとした。

 

【ブログ主のコメント】

本ブログの連載において、大物政治家によるセクハラ事案は、「女性記者セクハラ被害事件簿 第9号」における公明党神崎武法代表(当時)によるケース以来、本件で2例目である。

 

第9号の神崎氏と今回の仙谷氏のケースに共通するのは、セクハラ被害を受けた女性記者本人が直接的に被害を訴えて明るみに出たのではなく、周囲の者がスキャンダルなネタとして興味を持ち、週刊誌で取り上げられたという点だ。

 

もしかすれば、セクハラを受けた女性記者は、加害者に憤って抗議したいという意向を強く有しているものの、相手との力関係から泣き寝入りを余儀なくされている実情を周囲の者が忖度して週刊誌に持ち込んだのかも知れない。

 

あるいは、女性記者自身は、この手のセクハラにはすっかり耐性ができており、本人は全く問題視していないにも関わらず、周囲の者が興味本位で騒ぎ立てているだけの可能性もゼロではないだろう。こういう発想自体、フェミニストからは糾弾されることは必至だろうが、セクハラに全く耐性のない20代のウブな乙女ならいざ知らず、オジさん達に揉まれてきた(「胸を」ではなく「社会の荒波に」的な意味での揉まれである)アラフォー女性であれば、半ば諦めに近い形で、セクハラ発言を聞き流しセクハラオヤジを適当にあしらう術を身につけているかも知れないからだ。

 

ともあれ、大物政治家の女性がらみのスキャンダル、要するにセクハラや不倫問題は、格好の週刊誌ネタである。おっと、「大物政治家の女性がらみのスキャンダル」という書き方自体、大物政治家が男性であることを前提としており、不適当だ。女性政治家であれば、男性がらみのスキャンダルが問題となる。いや、異性とのセクハラや不倫だけでなく、同性相手の性的関係も問題になりうるな、という論点はさておき。

 

ここで十分注意する必要があるのは、大物政治家の性的トラブル報道には、謀略的要素が少なからず存在することだ。時として、ある政治勢力が、政敵を潰すためのネガティブキャンペーンの材料として、最も容易で利用価値が高いのがセクハラ、不倫といった性的トラブルである

 

よく知られていることに、週刊誌各誌や新聞各紙には、それぞれ政治的な色(選好)がある。週刊文春週刊新潮は、元々保守色が強い雑誌で、自民党の広報誌的役割を担うことがあり、いわゆる革新系の野党議員のスキャンダルを大きく取り上げるのがお家芸である。これに対し、週刊現代週刊ポストは、時に政権与党に与することもあれば、時に与党に厳しい姿勢で臨むこともある。

 

このような背景事情を踏まえると、仙谷氏のスキャンダルを、週刊文春週刊新潮が全く同じタイミングで取り上げたことには、保守陣営による民主党政権潰し、あるいは仙谷潰し策動の香りがプンプンするものである。特に、週刊新潮は露骨で、「「赤い官房長官」の正気と品性が疑われる桃色言行録」という見出しに、本文中でも「赤い上に桃色の官房長官」などと、仙谷氏が「エロい共産主義者」であるとの「印象操作」を凝らしている。

 

両誌の報道に、謀略のきな臭さを嗅ぎ取ったからこそ、仙谷氏は、名誉毀損訴訟を提訴したのであろう。結局、東京地裁は、「記事に公益性と真実性がある」とし、仙谷氏敗訴の判決を言い渡している。週刊文春週刊新潮が、純粋に公益性の観点から報道したのか、それとも政治的意図を帯びた計謀であるかの判断はともかくとして、大物政治家たるもの、ちょっとしたセクハラ発言が命取りになりうることを肝に銘じ、李下に冠を正さず、が本件の教訓であろう。

 

【予告】

次回は、神奈川県警の副署長による全国紙の女性記者へのセクハラ事案を紹介する。