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女性記者セクハラ被害事件簿 第8号事案の追加コメント

先般、本ブログの連載企画「女性記者セクハラ被害事件簿 第8号」では、2000年に発覚した高知県警巡査長による地元高知新聞社女性記者に対するセクハラ事件を取り上げた。

 

先日のブログ記事でもコメントしたとおり、本事案は、女性記者からセクハラの被害の報告を受けた社の上司が県警に抗議するという極々真っ当な対応をし、新聞社からの申し出を受け、県警が処分を決定し、その事実を当該新聞社が自社媒体で報道する、という極々真っ当な経過を辿ったケースである。

 

「女性記者からセクハラの被害の報告を受けた社の上司が県警に抗議する」という極々真っ当な対応が、新聞社と警察の力関係次第では、必ずしも容易ではないことは、過去のブログ記事(第2号第3号)でコメントした通りである。2018年4月に発覚した福田財務次官による日テレ女性記者へのセクハラ事案でも、女性記者は上司に相談したところ社として相手方に抗議するという真っ当な対応がなされず、官僚組織と中央メディアの力関係が争点となったことは記憶に新しい。

 

また、「女性記者セクハラ被害事件簿 第6号」で取り上げた北海道警察の署長による北海道新聞女性記者に対するセクハラ事案では、北海道新聞は被害者が自社の社員であることを伏せて、「女性会社員」と他人事のような取り上げ方であった。

 

このような観点から、高知新聞がどのような判断プロセスによって、警察に抗議し、自社の女性記者が被害を受けた事実を記事化したのか興味があったところであるが、今般、この点を明示した高知新聞の記事を入手したので、参考までに転載する。

 

具体的には、高知県警がセクハラ加害者の巡査長の処分を発表した2000年4月26日の『高知新聞』夕刊の「県警巡査長がセクハラ 本紙2女性記者に きょう付で論旨免職 当時の署長ら3人も処分」という見出しの全1,388字の記事である。被害の詳細も実にリアルに記述されており、若干長いが、全文を引用する。

 

 県警の巡査長(45)が今年三月、高知新聞社の女性記者に対して抱きつくなどのセクハラ行為をしていたことが分かった。この巡査長は二年前に本紙の別の女性記者に対してセクハラ行為をしていたことも判明。本社から通報を受けた県警は巡査長ら関係者から事情聴取した上で二十六日、記者会見して事実関係を公表した。県警は警察官の立場を利用した悪質な行為として、巡査長を同日付で諭旨免職にするとともに、監督責任として当時の署長と課長を本部長訓戒、もう一人の課長を所属長注意処分とした。

 

 本紙女性記者の話や県警の調査によると、三月二十四日夜、歓送迎会に出席していた本紙の女性記者に対して、女性記者が取材担当していた警察署の巡査長から携帯電話で別のスナックに飲みに来るよう誘いがあった女性記者は断ったが、再三電話がかかり、さらには巡査長が女性記者を飲食店まで迎えに来た

 

 このため女性記者は巡査長と近くのスナックへ出向いた。店内では巡査長の同僚の警察官二人も飲酒しており、女性記者は巡査長らと三十分ほど飲酒。その後帰宅しようと自分のバッグを持とうとすると、巡査長が取り上げて隠して妨害した。

 

 女性記者はバッグを取り返し、店外に出てタクシーに乗ったが、後をついてきていた巡査長も一緒に乗り込んできた。女性記者は自宅へ向かうよう運転手に言って自宅近くまで来たところで、巡査長が「ホテルへ行け」と運転手に指示。しかし、タクシーは女性記者の指示通り自宅へ到着し、女性記者は下車した。

 

 ところが、巡査長も下車し女性記者を追いかけてきて、横から抱きついた。このため女性記者は巡査長を振り切って逃げ、自宅に飛び込んだ。けがなどはなかった。巡査長はそのまま立ち去ったという。

 

 女性記者は、別の女性記者に相談。ところがこの女性記者も平成十年の夏ごろ、同じ巡査長から同様のセクハラを受けたことを告白した。この女性記者は巡査長から何度か酒を飲みに行こうと誘われたあまり親しくなかったので気が進まなかったが、取材先ということもあって出掛けると、酔ったところで、抱きつくなどのセクハラ行為を受けたという。

 

 二人の女性記者から報告を受けた本社は三月下旬、県警に連絡。県警は巡査長から事情聴取した結果、二件のセクハラ行為を全面的に認めた。県警は発覚後、すぐに巡査長に休暇を取らせ事実確認を進めていた。

 

 県警の警務部長は「お二人の被害者の方には大変な思いをさせて誠に申し訳なく思います。また、警察を挙げて信頼回復に取り組んでいるこの時期に県警の警察官がこのような不祥事を起こしたことは誠に遺憾であり、県民のみなさまに深くおわび申し上げます。今後は警察官の身上把握と倫理教養の徹底を図り、不祥事の根絶を期したい」と話している。

 

  ▼人権踏みにじる行為  藤戸謙吾・高知新聞社編集局長の話

 女性記者の人権を踏みにじる悪質な行為だ。被害者のプライバシーは最大限保護しなければならないが、取材する側とされる側の関係の中で起きた出来事で、双方ともに社会的責任があり、被害者の職業を伏せることはできないと判断。本人の了承を得てあえて社名や職種を明らかにした。警察の不祥事が後を絶たない中、県警は倫理面のチェック、服務規律の徹底を図り、二度とこうしたことが起きないよう県民の信頼にこたえてもらいたい。

 

 

【ブログ主のコメント】

 

高知新聞がどのような判断プロセスによって、県警に抗議し、自社の女性記者が被害を受けた事実を記事化したのか、というブログ主の疑問は、高知新聞の記事の最後の編集局長のコメントから解決に至った。すなわち「女性記者の人権を踏みにじる悪質な行為だ。被害者のプライバシーは最大限保護しなければならないが、取材する側とされる側の関係の中で起きた出来事で、双方ともに社会的責任があり、被害者の職業を伏せることはできないと判断。本人の了承を得てあえて社名や職種を明らかにした」という判断に基づく対応だったようだ。

 

この時、高知新聞の編集局長には、ちょうど1か月前に発覚した北海道警察の署長による北海道新聞女性記者に対するセクハラ事案のことが念頭にあったに違いない。上述のとおり、北海道新聞は被害者が自社の社員であることを伏せて、「女性会社員」と他人事のような取り上げ方であったが、この道新の報道姿勢については、マスコミ倫理として問題視する意見が根強く存在したからである。

 

ジャーナリズム論的な観点から、高知新聞の対応は編集局長のカッコいいコメント掲載を含め秀逸と言えるが、編集局長は、「ジャーナリズムの神髄」的な立派なコメントを紙面掲載することにさぞかし爽快感、昂揚感を感じていたに違いない。俺たちは、道新なんぞより、よほどジャーナリズム精神が高いのだ、とマスコミ業界内を意識して鼻高々であったことだろう。

 

ちなみに、このセクハラ事件が発生した当時、高知新聞では、高知県庁が特定の協業組合に巨額の公金を闇融資していたという汚職事件を追及する連載を続けていた。多くのメディアが迫れなかった同和利権に絡む不正事件に切り込んだとして、闇融資問題の調査報道と企画連載「黒い陽炎県やみ融資究明の記録」は2011年度に新聞協会賞を受賞している。さらに、高知新聞は、もともと自由民権運動の系譜を受け継ぐ新聞としての自負が強く、自由な社風を誇りにしているらしい。このような同社の社風や当時のイケイケの報道姿勢が、本件セクハラ事案への対応にも顕れていると言えるかもしれない。

 

ところで、本事案が発生した時期には、警察の不祥事が全国的に相次ぎ、社会的に大問題となっており、警察庁では、警察組織の在り方や改革の方向性を議論するため「警察刷新会議」が開催されていた時期である。

 

たまたま、高知県警が巡査長によるセクハラの処分を記者発表した2000年4月26日には、第4回会合が開催され、お偉いさん達が警察組織の改革案を討議していたのだ。翌27日の新聞各紙は、1面級で「警察刷新会議」について大きく取り上げていたが、まさに同じ日の読売新聞(東京本社版)社会面では、「セクハラ、わいせつ…ハレンチ警官」という3段の見出しで、本件高知県警の巡査長のセクハラ事案と、神奈川県警の巡査長が拘置中の女性被告にわいせつ行為をして逮捕されるという、新たな警察不祥事が2本併記されているのは何とも皮肉でギャグのようだ。

 

【予告】

次回、女性記者セクハラ被害事件簿第18号では、大物政治家による日経新聞記者に対するセクハラ事案について紹介する。