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女性記者セクハラ被害事件簿 第2号

 

 

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昨日は、女性記者セクハラ被害事件簿第1号として、1993年1月に報道された福島県警本部長による地元紙女性記者に対するセクハラ事案について取り上げた。今回は、その3週間後に報じられた広島での事例について報告する。

 

 

【加害者】広島県警広署(呉市)の署長(55歳)

 

【被害者】中国新聞記者(20代前半)

 

【明るみに出たきっかけ】

週刊誌『サンデー毎日』1993年2月21日号がスクープ報道

 

【事件の概要】 

1993年1月18日夜、広島県呉市内のスナックで、広島県警広署と地元の記者たちによる新年会の二次会が開かれていた。衆人環視の中で行われていたセクハラ行為を目撃していた同席者と思しき人物が、『サンデー毎日』に情報提供。被害者たる中国新聞記者に取材した際の記者の涙ながらの発言が、そのまま記事に引用されている。

 

「L字型のボックス席の角に署長が座ってて、署長に呼ばれて右隣に移ったんです。」

「初めは盛んに、私の手を握ったり、さすったりして、ほかの記者と話している間も、離そうとしないんです。」

 

 署長は、酒に酔っていて、機嫌良さそうに左隣に座ったママとエッチな話をしながら、ママの体を触りまくったり、胸元から手を入れたり。記者は不快な思いで見ていたところ、

「突然、振り向いて、顔をグッと近づけてきて、『君のは、右の胸と左の胸のどちらが大きいかな』と言って、手を伸ばして」「片手をテーブルについて支えながら、片方の手で服の上からしっかりタッチされました。触りながら『どっちが大きいかな』とニヤニヤしてました。」

 

「とにかく、いやですから体を後ろにずらして、逃げたんです。そうしたらやっと、署長は触るのを辞めました。」

「店を出るまで、いや今もって直接、謝罪をされたことはありません。それどことか、今度は手を握って、『君の手は大きいかな、小さいのかな』って。何度もです。」

 

その後、女性記者のノルマみたいな感じでチークダンスを2回強要され、ギューギューと抱きしめられたという。『サンデー毎日』の記者が、署長の行為を断固、拒めなかったのはなぜかと聞いたところ、

 

「私は未熟で、力関係とかいろいろ考え、どうしていいのか、分からなくなってて…。会社は署長に抗議したと聞いてますが、今思うと、拒否なかったことで、周囲から『女の武器を使って、ネタ取ってるんじゃないか』と思われてしまうのが悔しくて」と話しながらとワッと泣き出してしまった。

 

【顛末】

中国新聞呉支社は1月21日、広署にこの問題について事情を聴きたいと申し入れ、同日夕方、署長が同支社を訪問。「楽しい雰囲気で推移した会合だった。言われるような行為を覚えていないが、疑惑を招いたとしたら陳謝する」と口頭で述べたという。

 

サンデー毎日』の掲載誌が発行された翌日の2月9日に報道各社の事件担当記者でつくる県警記者クラブも、事実関係を明らかにするよう県警に申し入れた。

 

同9日、広島県警の監察官室長は記者会見し、「瞬間胸に触り、手も握った」などと事実を認めながらも「性的嫌がらせの目的ではなかった。結果的に不快感を与えたことは遺憾。組織としてセクハラには当たらないと確認したので、処分は考えてない」と弁明。

 

本件については、結局、セクハラ署長は処分されなかった模様だ。

 

【セクハラ署長の言い分】

この署長は、酒癖と女癖の悪さでは札付きだったようだが、『サンデー毎日』の取材に対し次のように答えている。

 

「冗談でしょ。ワシはA子(被害を受けた記者)さんの胸なんて触っていない。彼女はそんないい女じゃない。」

「おっぱいの話をしてて、触ったふりぐらいしたかな。よく覚えとらんな。それが誤解されたか。」

 

中国新聞呉支社からの申し入れ・抗議を受けた点については、

「あれは違う。取材に動いた社があったんで、(中国新聞側と)お互いにセクハラじゃないことを確認して、チョンにしただけだ。」

「オーバーに言ってるのさ。皆、あんなに楽しんでて、ワシなんか、『今までの宴会の中で最高や』と思ってる。それがそんな話になるなんて、この世に神も仏もいないのか。」

 

【ブログ主のコメント】

平然と『今までの宴会の中で最高や』と語ったり、悪びれることなく新聞社と「手打ち」したことを自慢する署長、また、「瞬間胸に触り、手も握った」などの事実を認めながら「組織としてセクハラには当たらないと確認した」として、セクハラ署長に何ら処分をせず幕引きをした広島県警に対して、誰もが衝撃と憤りを感じるに違いない。25年以上も前の事案とは言え、後味が気持ち悪すぎる。

 

酒の席だから、とか、証拠はないなどの弁解で茶を濁し、セクハラを否定して開き直る無恥なところは、今般の福田財務次官や財務省とソックリだ。でも、今般の福田次官のケースでは、当初は財務省もシラを切り通そうとしたものの、録音テープも公表され、世論の大きな反発に押される形で、辞任後に懲戒処分となった。

 

25年前の広島県警署長によるこのケースは、被害を訴える記者の社の上司が抗議したり、記者クラブが事実関係の解明を申し入れたにも関わらず、結局ウヤムヤのまま、署長は何らオトガメなしで落着となったようだ。今現在の社会通念ではあり得ない対応であるが、当時の社会通念では宴席で女性の胸を触ることは問題ナッシングだったのだろうか。決してそんなことないと思うが。

 

ちなみに、署長がスナックでコトを起こした時点では、神奈川県警本部長によるセクハラ事案が全国的にも大きく報道されており、全国の警察関係者の間でも話題になっていたはずである。この署長も、スナックでコトに及んだ時点で、神奈川県警本部長のセクハラ事案を耳にしていた可能性は高いと思われるが、「呉は、俺の天下だ。俺に逆らえる奴はいない。」と悪代官様の境地で終始強気でいたのであろう。

 

社の上司に相談し、上司が署長に抗議したものの、署長が支局に乗り込んできて、結局はウヤムヤにされてしまい、被害者は無念だったに違いない。最後に、こんなことがまかり通ってしまったことの背景にあると思われる、県警と地元紙の間に何とも微妙な関係について言及しておく。

 

もともと、警察とマスコミの間の関係は、情報を占有する警察当局と、その情報を誰よりも先に入手したいマスコミ・記者との絶対的な権力勾配を前提としつつ、マスコミ側が掴んだ情報を内々に警察当局に提供、あるいは、警察にとって都合のいい誘導記事を書いた時に、褒賞として情報がリークされる、といった裏取引や貸し借りの関係で成り立っている。

 

とりわけ、全国的に、各県警と地元紙は特別な癒着関係にあり、例えば、全国紙やNHKが刑事犯罪がらみのスクープを打つことを県警側が掴んだ時点で、刑事部長―編集局長ホットラインによって県警から地元紙にその旨が伝達され、全国紙やNHKよりも先んじて、あるいは同じタイミングで地方紙がスクープを報じることはよくある話だ。その見返りとして、警察の不祥事を揉み消したり、全国紙が地方版で報じる中、地方紙は県警に都合悪い記事を一切取り上げない、といった形で、デープなギブ・アンド・テイクの関係が構築されている。

 

特に、広島県と言えば、被爆地を抱えるなど社会的に重要なマターが多く、全国紙はエース級の辣腕記者を広島支局に投入しているのだ。このため、取材合戦は熾烈であり、弱小の地元紙である中国新聞としては、全国紙との取材合戦に勝ち抜くため、常に、平身低頭で県警幹部と相接しなければならない運命にある。すなわち、中国新聞は県警に対して、構造的に力関係として絶対的弱者であり、このことが被害者が泣き寝入りをせねばならなかった主因であると考えられる。

 

最後に、1点付記。『毎日新聞』1994年4月21日朝刊(大阪本社版)で、同社の女性記者が「男女共生時代の新聞」をテーマに座談した記録が掲載されているが、その中に、おそらく、本件広島の事案について言及したものと推察できる発言があったので、引用しておく。

 

「警察担当の地元紙の女性記者が取材中に胸を触られるなどのセクハラがあったんです。地元紙は警察とトラブルを起こしたくなかったのか、警察側の「セクハラのつもりではなかった」と言い分を受け入れたんです。女性が苦しい立場に置かれても、だれも守ってくれないのか、と恐怖を感じましたね。」

  

【予告】

次回は、第2号事例と同じ週刊誌の同じ号に併せて掲載された、石川県警巡査部長による読売新聞女性記者に対するセクハラ事案について取り上げる。

 

【文献】

 ・『サンデー毎日』1993年2月21日号(発売は同月8日)

 ・『朝日新聞』1993年2月9日夕刊(大阪本社版)

 ・『毎日新聞』1993年2月10日朝刊(大阪本社版)

 

【関連記事】

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  ・女性記者セクハラ被害事件簿 第3号

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