syakai-no-mado

社会ノマド、社会の窓、流浪しながら漂泊する社会を見つめます

日韓の国力を冷静に国際比較する(その4):2019年社会進歩指標(Socail Progress Index)の成績は?

 

f:id:syakai-no-mado:20190929184012p:plain

米国の非営利組織Social Progress Imperativeが公表した2019年社会進歩指標

 

 

昨日は、スイスのビジネススクールであるIMDの研究機関が公表した「世界デジタル競争力ランキング2019」を取り上げ、このランキングでは、韓国が世界10位、日本が23位であることを紹介した。

 

本日紹介するのは、9月18日に公表された「2019年社会進歩指標(Socail Progress Index)」であり、「世界デジタル競争力ランキング2019」とはちょうど正反対の順位となっており、日本が世界10位、韓国が23位である。

 

社会進歩指標(Socail Progress Index)は、経済的な進歩ではなく、生活の質の向上など人間としての社会的進歩を評価することを目的とした指標である。具体的には、どのような項目を評価するのかは後述するが、まずは、対象の149か国中上位30各国を列記しよう。なお、国名の後のカッコ内の順位は、昨年の146か国中のランキングである。

 

1位 ノルウェー(1位)
2位 デンマーク(4位)
3位 スイス(3位)
4位 フィンランド(5位)
5位 スウェーデン(11位)
6位 アイスランド(2位)
7位 ニュージーランド(10位)
8位 ドイツ(9位)
9位 カナダ(14位)
10位 日本(6位)
11位 オランダ(7位)
12位 オーストラリア(15位)
13位 英国(13位)
14位 アイルランド(12位)
15位 フランス(16位)
16位 ルクセンブルグ(8位)
17位 スペイン(19位)
18位 ポルトガル(24位)
19位 ベルギー(17位)
20位 オーストリア(20位)
21位 スロバニア(22位)
22位 イタリア(21位)
23位 韓国(18位)
24位 チェコ(26位)
25位 エストニア(27位)
26位 米国(25位)
27位 シンガポール(23位)
28位 キプロス(28位)
29位 マルタ(対象外)
30位 ギリシャ(29位)

 

この社会進歩指標は2013年に試行され、2014年から毎年公表されている。2014年から2019年までの過去の各年の報告書から、日韓両国の順位を拾ってみる。

 

2014年 14位-28位(132カ国中)
2015年 15位-29位(133カ国中)
2016年 14位-26位(133カ国中)
2017年 17位-26位(128カ国中)
2018年  6位-18位(146カ国中)
2019年 10位-23位(149カ国中)

 

データのそろい具合などから、年によって対象国の数が異なるが、おおむね例年、日本は世界で10位台、韓国は20位台をキープしていることが見て取れる。


ちなみに、2018年報告書では、上述のとおり、日本は6位、韓国は18位にランキングされているが、2019年報告書の公表に合わせ経年比較のため過去データを今回補正した後の数値では、2018年の成績は、日本は11位、韓国は23位と下方修正されている。すなわち、当初の報告書に基づけば、2018年には日韓との前年と比べ一過性に大幅にランクがあがったものの、2019年には再び順位を落としたことになるが、補正後の数字では、2018年19年の両年で、両国とも例年と大差のない順位であることがわかる。

 

社会進歩指標(Socail Progress Index)とは

社会進歩指標(Socail Progress Index)は、米国の非営利組織Social Progress Imperativeが開発し公表している指標で、経済的な進歩ではなく、生活の質の向上など人間としての社会的進歩を評価することを目的としたものである。GDPなどの経済指標を用いることなく、「人間の基本的要求(Basic Human Needs)」「幸福の基盤(Fundations of Wellbeing)」「機会(Opportunity)」の3つの構成要素に関連する51の指標を総合評価して算出される。

 

「人間の基本的要求(Basic Human Needs)」は、(1)栄養・医療提供(2)水・衛生(3)住まい(4)個人の安全、の4つの下位要素により構成される評価指標である。「(1)栄養・医療提供」は、低栄養者の割合、母体死亡っ率、小児死亡率、発育不良児の割合、感染症による死亡率、の5指標により構成される。「(2)水・衛生」は、飲料水へのアクセス、水道水へのアクセス、衛生施設へのアクセス、屋外での排便、の4指標、「(3)住まい」は、電力へのアクセス、電力供給の質、屋内空気汚染による死亡率、調理用のクリーンな燃料・器具へのアクセス、の4指標により構成される。また、「(4)個人の安全」は、殺人による死亡率、犯罪認知、政治的な処刑・拷問、交通事故死亡率、の4指標により構成される。

 

「幸福の基盤(Fundations of Wellbeing)」は、(1)基礎的知識へのアクセス(2)情報通信へのアクセス(3)健康とウエルネス(4)環境の質、の4つの下位要素により構成される評価指標である。「(1)基礎的知識へのアクセス」は、成人の識字率初等教育を受ける子どもの割合、中等教育を受ける子どもの割合、中等教育の男女差、質の高い教育へのアクセス、の5指標により構成される。「(2)情報通信へのアクセス」は、携帯電話の普及率、インターネットのユーザー数、オンラインガバナンスへのアクセス、メディアへの検閲、の4指標、「(3)健康とウエルネス」は、60歳時点の平均余命、非感染性疾患による早死、保健サービスへのアクセス、質の高い保健医療へのアクセス、の4指標により構成される。また、「(4)環境の質」は、大気汚染による死亡率、温室効果ガスの排出、生態系の保全、の3指標により構成される。

 

「機会(Opportunity)」は、(1)個人の権利(2)個人の自由・自己決定権(3)包摂(4)高等教育へのアクセス、の4つの下位要素により構成される評価指標である。「(1)個人の権利」は、参政権表現の自由、宗教の自由、司法へのアクセス、女性のための所有権確保、の5指標により構成される。「(2)個人の自由・自己決定権」は、不安定な雇用の割合、年少女性の結婚率、人口妊娠中絶への満足度、汚職、の4指標、「(3)包摂」は、同性愛者への寛容性、マイノリティへの差別・暴力、政治力の男女平等性、異なる社会経済状態の者の間の政治力の平等性、異なる社会グループ間の政治力の平等性、の5指標により構成される。また、「(4)高等教育へのアクセス」は、高等教育の期間、女性が教育を受ける期間、大学の世界的ランキングの高さ、世界的ランキングの高い大学の生徒割合、の4指標により構成される。

 

社会進歩指標を構成する要素ごとの日韓比較


冒頭で、これら各指標を総合評価した結果である社会進歩指数のランキングを示したが、ここからは、社会進歩指標を構成する要素ごとに、日韓両国のランキングを見てみよう。前が149カ国中の日本の順位、後ろが韓国の順位である。報告書に倣って、比較的好成績の項目は青色、悪い指標は赤色で示す。


人間の基本的要求3位7位
幸福の基盤3位-25位
機会:20位-26位

 

人間の基本的要求」の下位要素
 栄養・医療提供:34位-19位
 水・衛生:32位-20位
 住まい:9位-22位
 個人の安全:2位5位

 

幸福の基盤」の下位要素
 基礎的知識へのアクセス:3位-7位
 情報通信へのアクセス:17位-3位
 健康とウエルネス:1位-5位
 環境の質:15位-92位

 

機会」の下位要素
 個人の権利:22位-28位
 個人の自由・自己決定権:23位-32位
 包摂:26位-32位
 高等教育へのアクセス:11位-15位

 

社会進歩指標を構成する51指標の日韓比較

次に、51の指標について、日本と韓国のランキングを順に並べる。なお、改めて断るまでもないが、それぞれの順位は良いほうから数えての順番である。例えば、「○○の死亡率」については、数値が低い国から順に並べた順番である。

 

栄養・医療提供」に関する5指標
 低栄養者の割合:1位-1位
 母体死亡率:12位-35位
 小児死亡率:4位-12位
 発育不良児の割合:47位-22位
 感染症による死亡率:51位-49位

 

水・衛生」に関する4指標
 飲料水へのアクセス:48位-30位
 水道水へのアクセス:41位-35位
 衛生施設へのアクセス:15位-1位
 屋外での排便:無し-無し

 

住まい」に関する4指標
 電力へのアクセス:1位-1位
 電力供給の質:9位-20位
 屋内空気汚染による死亡率:3位-3位
 調理用のクリーンな燃料・器具へのアクセス:1位-45位
 

個人の安全」に関する4指標
 殺人による死亡率:1位-19位
 犯罪認知:1位1位
 政治的な処刑・拷問:23位-21位
 交通事故死:8位-48位


基礎的知識へのアクセス」に関する5指標
 成人の識字率:1位-1位
 初等教育を受ける子どもの割合:55位76位
 中等教育を受ける子どもの割合:4位-11位
 中等教育の男女差:1位-1位
 質の高い教育へのアクセス:1位-3位

 

情報通信へのアクセス」に関する4指標
 携帯電話の普及率:1位-1位
 インターネットのユーザー数:13位-7位
 オンラインガバナンスへのアクセス:5位-1位
 メディアへの検閲:66位-16位
 
健康とウエルネス」に関する4指標
 60歳時点の平均余命:2位-10位
 非感染性疾患による早死:3位-2位
 保健サービスへのアクセス:10位-17位
 質の高い保健医療へのアクセス:1位6位
 
環境の質」に関する3指標
 大気汚染による死亡率:10位-47位
 温室効果ガスの排出:32位-71位
 生態系の保全:1位-131位


個人の権利」に関する5指標
 参政権:1位-49位
 表現の自由52位-22位
 宗教の自由:29位-5位
 司法へのアクセス:12位-14位
 女性のための所有権確保:24位-38位
 

個人の自由・自己決定権」に関する4指標
 不安定な雇用の割合:23位-56位
 年少女性の結婚率:20位-1位
 人口妊娠中絶への満足度:84位-38位
 汚職:17位-39位

 

包摂」に関する5指標
 同性愛者への寛容性:49位64位
 マイノリティへの差別・暴力:17位-9位
 政治力の男女平等性:72位-35位
 異なる社会経済状態の者の間の政治力の平等性:12位-72位
 異なる社会グループ間の政治力の平等性:19位-16位

 

高等教育へのアクセス」に関する4指標
 高等教育の期間:32位-4位
 女性が教育を受ける期間:9位-38位
 大学の世界的ランキングの高さ:4位-10位
 世界的ランキングの高い大学の生徒割合:36位-52位

 

ブログ主のコメント

これらの各指標を眺めると、日韓両国の強みと弱みがよく理解できる。「人間の基本的要求(Basic Human Needs)」「幸福の基盤(Fundations of Wellbeing)」「機会(Opportunity)」の3つの構成要素のうち、日韓両国とも、「人間の基本的要求」については世界でトップクラスの成績であるのに対し、「機会」については、両国ともランキングが低迷しており、社会政策的に大きな問題をはらんでいることが見て取れる。


一方で、日韓両国で最も大きな差が生じているのが、「幸福の基盤」についてである。日本は、下位要素の「基礎的知識へのアクセス」「健康とウエルネス」で世界1位であるが、「情報通信へのアクセス」が17位に低迷していることから、「幸福の基盤」は全体として世界第3位となっている。それに対し、韓国では、「情報通信へのアクセス」が3位と好成績であるが、「環境の質」が世界第92位と極めて劣悪であり、「幸福の基盤」は全体として世界第25位に留まっている。

 

さて、日韓両国とも問題をはらんでいる「機会」とは、要するに基本的人権の擁護や社会正義に関する事柄である。日本では、「表現の自由」が52位、「人工妊娠中絶の満足度」が84位、「同性愛者への寛容性」が49位、「政治力の男女平等性」が72位と、先進国としては非常に恥ずかしい結果が示さされている。


これらについて言及を始めるとキリがないが、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」における企画の一つ「表現の不自由展・その後」が中止に追い込まれ、「あいちトリエンナーレ2019」自体の補助金約7800万円の不交付を決定するなど、およそ先進国としてはあり得ない安部政権の愚行により、来年は「表現の自由」の項目は更に順位を落とすことは必至であろう。関連して、「幸福の基盤」の下位要素「情報通信へのアクセス」の1指標である「メディアへの検閲」が日本は66位(韓国は16位)であるのは、政府・自民党によるNHKや民放への露骨な政治介入を反映したものであろう。「人工妊娠中絶の満足度」の低さは、先進国で唯一、堕胎罪が存続していること、妊娠中絶薬が未承認であることに拠ると考えられる。


対する韓国では、「表現の自由」22位、「人工妊娠中絶の満足度」38位、「政治力の男女平等性」35位などは日本よりマシであるし、「マイノリティへの差別・暴力」については世界9位と比較的好成績であるが、「参政権」が49位、「不安定な雇用の割合」が56位、「同性愛者への寛容性」が64位、「異なる社会経済状態の者の間の政治力の平等性」が72位など、同国ならではの社会問題が浮き彫りとなっている。


ともあれ、51の指標を総合評価した社会進歩指標において、例年、日本は10位台、韓国は20位台をキープしているが、さらに上位を目指すには、両国とも、「機会」に関する政治的アクションと社会における価値変容が不可避であろう。

 

(補足コメント)
いくつかの指標については、直感的に事実誤認があるのではないか、と疑問を抱かざるを得ない。例えば、以下の項目である。備忘録的に追記する。


・「発育不良児の割合(Child stunting(% of children))」について、日本は世界47位とされている。「Child stunting」の定義までは確認していないが、日本の保健医療水準を考えると、発育不良児が47位とはにわかに信じられない。日本において、「Child stunting」の解釈等に誤認があるのではないか。


・「飲料水へのアクセス(Access to at least basic drinking water(% of pop.))」について、日本は世界48位とされている。「Access to at least basic drinking water」の定義を確認していないが、日本のインフラ整備状況に鑑みると、自虐的な回答をしているとしか思えない。日本では、水道敷設率が必ずしも高くないかも知れないが、井戸水等の使用であっても、良好な水質の飲料水が全国民に確保されているはずだ。


・「調理用のクリーンな燃料・器具へのアクセス(Access to clean fuels and technology for cooking(% of pop.))」について、韓国は、世界45位である。ブログ主は、韓国の料理文化を理解していないが、薪や炭火などを多用して調理が行われているのだろうか。


・「初等教育を受ける子どもの割合(Primary school enrollment(% of children))」について、日本は55位、韓国は76位であるが、両国の教育水準をに照らせば、もっと上位にランキングされてしかるべきではないだろうか。


・ブログ主は、韓国の環境問題について理解が乏しいが、「環境の質(Environmental Quality)」は実際に世界92位のレベルの極めて劣悪な状況なのであろうか。中国からの大気汚染物質の流入等により、大気環境の質が不良であることは想像できるが、「生態系の保全(Biome protection(% of biomes))」が世界131位の悲惨な状況にあるとは信じがたい。韓国の報告者は、Biome protectionの解釈を誤っているのではないだろうか。

 


【出展】
2019 SOCIAL PROGRESS INDEX Executive Summary
https://www.socialprogress.org/assets/downloads/resources/2019/2019-Social-Progress-Index-executive-summary-v2.0.pdf

 

2014年以降の過去のデータなどは、Social Progress Imperativeの次のサイトに収載されている。
https://www.socialprogress.org/resources

 


【本ブログ内の関連記事】

日韓の国力を冷静に国際比較する

(その3):デジタル競争力ランキング2019の結果
https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/09/28/140000

(その2):世界幸福度ランキング2019の結果から
https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/03/21/021200

(その1):パスポートの「実力」は?
https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/03/06/010000