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日韓の国力を冷静に国際比較する(その5):日韓両国の国際競争力は世界何位?

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世界経済フォーラム(WEF)の国際競争力ランキング

世界経済フォーラム(WEF)は10月8日に、各国の国際競争力ランキングを示したレポート「Global Competitiveness Report 2019(2019年世界競争力レポート)」を発表した。世界経済フォーラムはスイスの非営利国際経済研究組織で、ダボス会議をはじめとした経済会議を開催するともに、国際競争力ランキングをはじめとした様々な研究報告書を発表している。


世界経済フォーラムによる国際競争力ランキングは、生産要素(factors of production)の成長では説明できない全要素生産性TFP:toal factor productivity)の要因を測定し、労働と資本の結合の効率性や、長期的な経済成長の可能性を評価したものである。


昨年からは、第4次産業革命(インダストリー4.0)の概念に重点をおいた「Global Competitiveness Index 4.0」に評価手法が変更された。新しい評価手法では、「可能性を切り開く環境(enabling environment)、人的資本、市場、イノベーションのエコシステムの4つの大項目に属する計12の中項目ごとにランキングを集計した上で、総合ランキングが算定される。今回は、世界141の国々が評価の対象となった。


具体的な評価項目については、後述するとして、上位30カ国を列記しよう。国名の後ろの括弧内は昨年の順位である。

 

1位 シンガポール(2位)
2位 米国(1位)
3位 香港(7位)
4位 オランダ(6位)
5位 スイス(4位)
6位 日本(5位)
7位 ドイツ(3位)
8位 スウェーデン(9位)
9位 英国(8位)
10位 デンマーク(10位)
11位 フィンランド(11位)
12位 台湾(13位)
13位 韓国(15位)
14位 カナダ(12位)
15位 フランス(17位)
16位 オーストラリア(14位)
17位 ノルウェー(16位)
18位 ルクセンブルグ(19位)
19位 ニュージーランド(18位)
20位 イスラエル(20位)
21位 オーストリア(14位)
22位 ベルギー(21位)
23位 スペイン(26位)
24位 アイルランド(23位)
25位 アラブ首長国連邦(27位)
26位 アイスランド(24位)
27位 マレーシア(25位)
28位 中国(28位)
29位 カタール(30位)
30位 イタリア(31位)
 
日韓の国力を比較する、という本稿の趣旨からすれば、日本の国際競争力は昨年からワンランク・ダウンの6位、韓国は2ランク・アップの13位である。

 

ランキングを見る場合の留意点等

第3回の世界デジタル競争力ランキング、第4回の社会進歩指標、それに今回の国際競争力ランキングはいずれも、数十から100程度の評価指標を選定し、これらを組み合わせて総合評価する、という手法により、総合ランキングが算定されるものである。調査機関から報告書が結果が公表されると、「自国は世界○位、昨年により○○ランクアップ(○○ランクダウン)」という見出しで各国のマスコミにより報道され、読者は、自国の順位のアップ・ダウンやライバル国との順位の高低に一喜一憂する傾向がある。

 

だが、この手のランキングは、どのような基本的考え方・基準のもとに、どのような評価指標を評価対象に選定し、どのような算定方法によりランキングを算出しているか、を理解することなく、総合ランキングの国別順位だけを比較するのは本質的には不毛なことであるとブログ主は考えている。

 

例えば、今回発表された世界経済フォーラムとは別に、スイスの国際経営開発院(IMD)も「国際競争力ランキング」を毎年発表しているが、5月に公表されたIMDの2019年ランキングでは、韓国は世界28位、日本は30位という成績であった。同じく国際競争力に関するランキングであっても、調査機関や調査手法等によって結果は大きく異なることに留意が必要である。

 

ランキングが不毛だと批判めいたことを書いたが、ブログ主は、決してこの手のランキングが全く無意味だと主張してるわけではない。どのような考え方や算定方法によりランキングが算出されているかを理解した上で、経年変化の推移をみることによって、各国の社会経済構造の特徴や構造的課題、将来性について予測することが可能である。ただし、経年推移を評価する場合には、同一調査機関のランキングであっても、年によって、評価方法や評価項目が変化することにも留意が必要である。

 

というのも、上述のとおり、世界経済フォーラムの国際競争力ランキングは、2018年から評価手法が大幅に変更され、2018と2019年とでは評価手法は共通であるものの、2018年は96項目、2019年は103項目と、選定された評価項目数が微妙に異なっている。

 

国際競争力の構成要素の各評価項目・指標の日韓の順位


ここからは、世界経済フォーラム(WEF)の国際競争力ランキングを構成する各評価項目、指標ごとの、日韓の成績を見てみよう。


まずは、12の中項目ごとの成績である。日韓両国の100点満点評価の得点、141カ国中の順位、各項目の世界第1位の国を表に示す。

 

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日本は、「健康」については100点満点で世界1位であるのに対し、「マクロ経済の安定性」は42位と芳しくない成績である。一方、韓国は、「ICTの普及」「マクロ経済の安定性」は世界1位であるのに対し、「製品市場」は59位、労働市場は51位と低迷している状況にある。なお、「マクロ経済の安定性」については、韓国は世界1位であるものの同点一位に並ぶ国は計33カ国あることに留意が必要である。また、日本が世界一位の「健康」については、同点一位に並ぶ国は4カ国存在する。


本稿は、各項目について詳細な分析を目的としたものではないが、ちょっとだけコメントしておくと、日本が「健康」、韓国で「ICTの普及」が世界第1位であることは合点がいく結果である。また、韓国の「労働市場」の低迷についても、労使対立など同国の雇用環境の厳しさからは納得できる結果である。


ただし、「マクロ経済の安定性」について、同点一位の国が33カ国あるとはいえ韓国が世界1位であることについては、本当に韓国のマクロ経済はそこまで順調なのかと疑問に感じざるを得ない。逆に、「製品市場」が59位と悪成績であることについては、ここまで悪い結果なのかと疑問に感じるところである。この疑問を解消するためには、各項目について、具体的にどのような指標を選択し、どのような重み付けで評価しているのかを確認する必要がある。


最後の表に示すとおり、例えば中項目「制度」は、「1.01 組織犯罪」から「1.26 環境関連条約の発効」までの下位26指標の組み合わせで評価したものであり、中項目「製品市場」は「7.01 財政措置(税と補助金)による競争の歪曲」から「7.07 通関の効率性」までの下位7指標を評価したものである。それに対して、中項目「健康」は「5.01 健康寿命」という単独指標のみで評価しており、また、中項目「マクロ経済の安定性」は「4.01 インフレ率」と「4.02 公的債務変動指標」の2指標のみの評価である。

 

なるほど、各指標まで掘り下げて眺めると、この指標の限界というか、杜撰さが見て取れる。メンバーの専門分野や関心領域については、密度の高い検討を行い、専門性や関心の低い領域はの評価は、手抜きをしていることがよく分かる。保健衛生の専門家であれば、「健康寿命」という単一指標でもって世界の国々の「健康」の度合を評価していることを知れば、一笑に付するであろう。また、マクロ経済の専門家であれば、「インフレ率」と「公的債務変動指標」の2指標でもって、韓国のマクロ経済の安定性が世界最高水準と評価することはナンセンスだと酷評に違いない。


とまれ、最後に、世界経済フォーラム(WEF)の国際競争力ランキングを構成する全103指標の日韓両国の順位を備忘録的に掲載しておくので、冷静に日韓両国の国力について検討する際に、参考にしていただきたい。

 

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 【出典】

The Global Competitiveness Report  2019

Klaus Schwab, World Economic Forum

http://www3.weforum.org/docs/WEF_TheGlobalCompetitivenessReport2019.pdf

 

 

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(その4):2019年社会進歩指標の成績は?
https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/09/29/184500

(その3):デジタル競争力ランキング2019の結果
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(その2):世界幸福度ランキング2019の結果から
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(その1):パスポートの「実力」は?
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