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6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その2)「危険な行為」と「極めて危険な行為」の差異

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2013年当時の防衛大臣(小野寺大臣)

 

日韓レーダー照射問題については、ごく一部に、そもそも、韓国駆逐艦から海自哨戒機に対しSTIR-180火器管制レーダーは照射されておらず、日本政府・自衛隊によるでっち上げ策動だ、とする論者も存在するようだが、さておき、火器管制レーダーの照射は客観的にどの程度の脅威を及ぼすものだろうか。レーダー照射の危険性について、いわゆる軍事評論家の間でも多様な見解が存在することは、以前本ブログでも指摘してきたとおりである。

 

では、政府及び自衛隊の火器管制レーダー照射について危険性認識は、と言うと、昨日のブログ記事で紹介したとおり、6年前の2013年1月中国海軍艦艇からの火器管制レーダー照射事案が発生した際、当時、政府は火器管制レーダー照射について「危険な行為」だという見解を示していた。ところが、今般の日韓レーダー照射問題の発生後、現在では政府は、火器管制レーダー照射について「極めて危険な行為」であると解釈を変更したようだ。

 

単に「危険な行為」というのと、「極めて危険な行為」と表出するのとでは、日本語使用者にとって、危険の度合に大きな差異を認識せしめることは言うまでもない。

 

今回は、今般の日韓レーダー照射事案と6年前の日中レーダー照射事案が発生した際、政府の文書や閣僚が、火器管制レーダーの照射の危険性についてどのような表現を用いてきたかを時系列で振り返りながら、「危険な行為」から「極めて危険な行為」へと危機認識のレベルが上方軌道修正された背景事情について簡単に考察してみたい。

 

6年前の日中レーダー照射事案の政府の危険性認識

<1.小野寺防衛大臣の臨時記者会見>

6年前の日中レーダー照射事案は、2013年2月5日の小野寺防衛大臣の臨時記者発表によって明るみになった。この会見で、小野寺大臣は、火器管制レーダーの照射について、「大変異常なことであり、これが一歩間違うと大変危険な状況に陥る」「一歩間違うと、大変危険な事態が派生する状況」「特異的な例」「極めて特異的」と表現している。
また、記者から「軍事衝突の可能性」もあったのか認識を聞かれ、「そこまでの衝突事案とは類推はしておりませんが、少なくとも現場には緊張感が走る、そのような事態だったと思っております」と回答している。

 

<2.参議院本会議での総理答弁、質問主意書への答弁書

翌2月6日には、参議院本会議で代表質問が行われ、民主党の金子洋一議員からの質問に対し、安部総理は「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」と答弁している。


2月6日に初出の「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」というフレーズは、その後、2月26日付の質問主意書への答弁書でも使用されており、火器管制レーダー照射に関する日本政府(内閣)の公式見解として確定した。

衆議院議員石川知裕君提出中国艦船による我が国の海上自衛隊護衛艦への射撃用レーダー照射を巡る一連の政府の対応に関する質問に対する答弁書

 

「御指摘の「中国艦船による射撃用レーダー照射」は、不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾であると考えている。政府としては、中国側に対し、外交ルートを通じて抗議を行ったところであり、引き続き、中国側が説明責任を適切に果たし、再発防止のために誠実に対応するよう求めていく考えである。」
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b183023.htm

 

2013年2月の国会では、レーダー照射事案に関連する質疑が相次いでいる。

 

<3.衆議院予算委員会での防衛大臣、総理の答弁>

2月7日の衆議院予算委員会では、石破茂議員の質問に対し、小野寺大臣が、「衝突に相当する、危険な事案に至る可能性がある」と答弁している。(あれあれ、2日前の5日の緊急記者会見での「そこまでの衝突事案とは類推はしておりません」という発言と齟齬があるように思うが、ここではこれ以上突っ込まないこととする)

 

同日の衆議院予算委員会では、民主党原口一博議員もレーダー照射問題について細かく質問しており、安部総理は、

「今回の中国のとったレーダー照射という行為は、極めて特異であり、そしてまた極めて危険な行為であります。偶発的な、エスカレートにもつながるという危険性を持っている行為であります」

と発言している。ここで、安部総理の口から、「極めて危険な行為」という発言が初めて登場する。前日の参議院本会議では、「極めて」という冠はつけず「危険な行為」と答弁しており、1日で総理の危険認識が高まったことは注目点だ。

 

2月12日の衆議院予算委員会では、公明党の高木美智代議員が質問しているが、安部総理は、「極めて挑発的、危険な行為」と、ここでも「極めて」という副詞を冠につけている。

 

 <4.参議院予算委員会での総理答弁>

2月27日の参議院予算委員会では、民主党福山哲郎議員が質問しているが、安部総理は、

不測の事態を招きかねない極めて危険な行為であり、遺憾であります

と答弁している。
その前日の26日に閣議決定された質問主意書への答弁書では、上述のとおり、「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」と記載されており、「極めて」という副詞の挿入位置が微妙に異なっていることに気付くだろう。


福山議員の国会質問に対し事務方が事前準備した総理答弁案(カンニング・ペーパー)では、事務方は、主意書の答弁書でのフレーズを忠実に転用し「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」という表現を使用していたはずだ。だけど、安部総理自身の強いこだわりとして、あるいは、単純な誤読で「極めて」の位置を変化させたのだろう。一連の総理の発言を踏まえると、単純な答弁の読み誤りではなく、総理自身の強い意志表示として、「極めて危険な行為」と発言した可能性が高いと思われる。

 

<5.総理の施政方針演説>

翌28日の衆議院及び参議院の双方の予算委員会での安部総理の施政方針演説では、レーダー照射問題について

「先般の我が国護衛艦に対する火器管制レーダー照射のような、事態をエスカレートさせる危険な行為は厳に慎むよう、強く自制を求めます。」

と発言している。
安部総理嫌いの人たちであれば、ここで「おいおい、事態をエスカレートさせているのは「極めて危険」などと必要以上に国民の危機意識を煽って、好戦的な世論形成を目論んでいるオマエのほうだろうが(怒)」と突っ込みを入れるのだろうが、ともあれ、施政方針演説において「極めて危険」というフェーズを用いることは、さすがの安部総理も自制していたようだ。

 

<6.参議院外交防衛委員会での防衛大臣答弁> 

その後、国会において日中レーダー照射事案についての言及はひと段落するが、2013年10月29日の参議院外交防衛委員会における所信演説で、小野寺大臣は、我が国周辺の海空域においても、

「昨年十二月に領空侵犯事案が、本年一月には海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案が発生するなど、不測の事態を招きかねない危険な行為が行われています。」

と述べ、主意書答弁等で用いられた「不測の事態を招きかねない危険な行為」というフレーズを踏襲している。

 

<7.2016年の中谷防衛大臣の答弁>

2016年2月5日の衆議院予算委員会第1分科会での予算審議の際の自民党大西宏幸議員の質問に対し、当時の中谷元防衛大臣は、

火器管制レーダーの照射というのは、基本的に火器の使用に先立って実施する行為でありまして、これを相手に照射することは不測事態を招きかねないものでありまして、危険な行為であると認識をいたしております

と答弁している。小野寺大臣からバトンタッチされた中谷大臣も、「不測の事態を招きかねない危険な行為」という答弁ラインを踏襲していたのである。

 

<8.小括>

以上、6年前の日中事案の発生時の火器管制レーダー照射についての政府の認識をたどってみた。結論としては、政府の公式見解として「不測の事態を招きかねない危険な行為」というフレーズが確立しており、2013年2月6日の参議院本会議での小野寺大臣の答弁、2月26日付の主意書への答弁書、10月29日の参議院外交防衛委員会における小野寺防衛大臣の所信演説、2016年の中谷防衛大臣の答弁では、このフレーズが用いられていた
それに対し、安部総理は、「極めて」という強調語を被せて「極めて危険な行為」というフレーズを6年前の事案において好んで用いていたのであった。

 

次に、今般の日韓レーダー照射事案における政府の言葉遣いを時系列で見てみよう。

 

今般の日韓レーダー照射事案の政府の危険性認識

 <1.岩屋防衛大臣の会見>

12月21日19時頃に防衛省内ロビーに行われた臨時会見で、岩屋防衛大臣は、「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為だ」と述べている。
また、共同通信によると、同日夜のBSフジ番組で、岩屋大臣は、「攻撃直前の行為だ。不測の事態を招きかねず、韓国側にはきちんと説明してもらいたい」と発言したらしい。
6年前の小野寺大臣は、「極めて危険」といった言い回しをしておらず、また、最初の会見では「そこまでの衝突事案とは類推はしておりません」と抑制的なトーンであったのに対し、岩屋大臣は、6年前の安部総理と同様、「極めて危険な行為」という表現を用いるとともに、「攻撃直前の行為」と踏み込んだ発言をしているのが印象的だ。

(ただし、BSフジ番組で、実際に「攻撃直前の行為だ」と述べたのかどうか真相は不明である。共同通信が記事作成時に、実際の発話に手を加えた可能性も否定できない)

 

<2.12月22日の防衛省見解>

翌22日に、防衛省は「韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について」という見解を書面で発表(ホームページに掲載)する。

「火器管制レーダーの照射は、不測の事態を招きかねない危険な行為であり、仮に遭難船舶を捜索するためであっても、周囲に位置する船舶や航空機との関係において、非常に危険な行為です。」

これは、実に味わい深い官庁文学表現である。この一文の前半部分では、一般論として火器管制レーダーの照射は「不測の事態を招きかねない危険な行為」であると6年前からの政府公式見解を踏襲しつつ、後半部では、「周囲に位置する船舶や航空機との関係において」は「非常に危険な行為」であるとの見解を創出しているではないか

 

<3.12月25日の定例会見での防衛大臣の発言>

12月25日の閣議後定例会見ではレーダー照射問題が質問の太宗を占めているが、岩屋大臣は、ある質問に対しては、「不測の事態を招きかねない危険な行為」と「極めて」を付けずに発言し、その後の別の質問に対しては「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為」と「極めて」の語ありで回答している。

(参考)記者会見での小野寺大臣の発言

A:そこは、大局に立ってものを考えなければいけないと私は思います。本事案については、今、おっしゃったように、不測の事態を招きかねない危険な行為であったことは事実でありまして、そのことは指摘をし、再発防止を求めていくという姿勢に変わりはありませんが、とはいえ、韓国が敵対国であるかというと、それは決してそういうことはない。また、わが国の安全保障というものを考えても、日韓の防衛当局間の関係、日米韓の関係というのは、極めて重要であるということに変わりはないというふうに考えております。


A:これも先ほど申し上げたように、やはり火器管制レーダーを照射するというのは、不測の事態を招きかねない極めて危険な行為であって、防衛省側の、海自側の分析で、照射を受けたことは明らかだということが分かりましたので、速やかに遺憾の意を表し、再発防止を申し入れる必要があったというふうに判断したからでございます。

 

 <4.菅官房長官の定例会見発言>

年が開け、2019年1月7日には、菅官房長官が午前の定例会見で、レーダー照射問題について

極めて危険な行為で、このような事案が発生したことは遺憾だ

と発言している。

 

<5.防衛省の最終見解>

そしていよいよ、2019年1月21日の「韓国海駆逐艦による自衛隊機への火器管制レーダー照射に関する防衛省の最終見解について」である。

「火器管制レーダーの照射は、火器の使用に先立って実施する行為であり、他国の航空機に向けて、合理的な理由もなく照射することは、不測の事態を招きかねない極めて危険な行為です」

この最終見解によって、6年前の日中レーダー照射事案発生後に確定した「不測の事態を招きかねない危険な行為」とする政府公式見解は事実上破棄され、危機認識の水準が「極めて危険」と最高レベルにまで引き上げられたのである。

 

<6.部隊視察先での防衛大臣訓示>

1月25日には、岩屋防衛大臣は、海上自衛隊厚木航空基地の部隊を視察したが、時事通信によれば、レーダー照射事案について「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為で、防衛省として韓国側に抗議するとともに、事実を認め再発防止を徹底するよう強く求めている」と訓示している。

 

2013年日中レーダー照射事案での政府見解の舞台裏

2013年2月5日夕刻の臨時記者発表において、小野寺防衛大臣は、「大変異常」「一歩間違うと大変危険な状況に陥る」「特異的」という用語を用いているものの、「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」というフレーズは使用してない。おそらく、この臨時会見時点で、まだこのフレーズは創出されていなかったのであろう。

 

では、いつ、どのようなプロセスで、このフレーズが構築されたのか。それは、2月5日の夜、民主党金子洋一議員から、代表質問追加の緊急通告があり、これを受けて、防衛省、外務省、首相官邸における最高幹部の徹夜の協議を経て創作されたフレーズであると推定できる。

まず、防衛省で答弁原案を作成し、外務省の協議を経た時点で、両省では、レーダー照射事案について、「危険な行為」という程度の表記を用いることに異論なく、「極めて」という強調語を付することは頭の片隅にもなかったに違いない

ところが、答弁案が完成し、総理秘書官等が安部総理にレクをした時点で、総理の口から、「危険な行為では弱すぎる。「極めて」を頭に持ってくるべきだ」と強い主張が発せられたのではないか。それに対し、レクに同席した防衛省、外務省の幹部は、「客観的状況認識として、たかだかレーダー照射について「極めて危険」とまで言うべき事態ではない」「「極めて危険」と総理が発言してしまうと、中国が反発し、両国間の緊張が益々強まってしまう」と抵抗したはずだ。

総理と防衛/外務両省幹部の答弁案に対する問答に対し、総理秘書官が折衷案として、「それでは、「危険な行為」の前に「極めて」は付けづに、その替わりに「極めて遺憾」という言葉を補いましょう」と提案。総理と防衛/外務両省幹部が折り合って、「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」というフレーズが出来上がったのは、代表質問の答弁の直前のことであろう。

 

2月6日の代表質問に対する答弁では、安部総理は、このフレーズを棒読みしたものの、本心では納得していない。反中国強硬派の急先鋒である安部総理としては、「極めて危険な行為」と発言して、中国を批判したくてたまらない。

翌7日の衆議院予算委員会民主党原口議員及び12日の公明党高木議員からの質問通告に対し、事務方が作成していた答弁案では、6日の答弁と同様、「危険な行為」と記載されていたに違いない。にもかかわらず、安部総理は、自らの判断で、わざわざ「極めて」を補って「極めて危険な行為」と発言してしまった。この答弁を聞いていた、防衛省、外務省の幹部は卒倒したはずだ。これで日中対立の泥沼化は不可避だ、と。

 

ここで、安部政権批判派ならば「極めて」の追加を「好戦的な安部総理一人の暴走」と批判するだろうが、筆者は、必ずしも総理一人の暴走ではなく、民主党公明党にも大きな原因があると考える。安部総理としては、民主党・原口議員と公明党・高木議員が、質問の中で、レーダー照射事案についてどのような見解を示すか、注意深く聞いていたはずだ。
「もし、両党が、レーダー照射について強行姿勢であれば、「極めて」の語を補い、両党が抑制的なトーンであれば「極めて」は省こう。」安部総理はそう考えていたに違いない。
果たして、民主党原口議員は、質疑の中で、「照射をするというのは、もうまさにこれは攻撃行為そのものととられても仕方がない」「攻撃行為だとすると、看過できない行為である、国際法上も大問題であるというふうに私は考えます」と中国を厳しく批判。これを聞いて、安部総理は、心の中で大きくガッツポーズをしたはずだ。「よしよし、「極めて危険な行為」と答弁しよう」。


5日後の12日には、公明党高木議員が質問に立った。公明党というと、連立与党でありながら、平和志向の宗教政党であり、そもそも総理は肌が合わない。その高木議員が質問の中で、「中国海軍フリゲート艦による火器管制レーダー照射という極めて重大な事案が発生をいたしました。これは戦闘行為に入る直前の事態であり、国連憲章にも抵触するおそれのある行為で、極めて遺憾と言わざるを得ません。」と発言。これを聞いて、安部総理は、またしてもガッツポーズ。「よしよし、公明党までも「極めて重大」とか言って中国批判をしているので、安心して「極めて危険な行為」と答弁しよう。」

 

ともあれ、民主党公明党の両党の対中国強硬姿勢に触発されて、安部総理は2月7日に「極めて危険な行為」と発言しちゃった訳であるが、2月26日付の主意書への答弁書では、「極めて」は再び省略され、「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」という2月6日の参議院本会議でのフレーズに戻ったのである。
もしかすれば、主意書への答弁書の決裁時点でも、総理は「危険な行為」という案から「極めて危険な行為」へと表現のアップグレードを主張したのかも知れない。だけど、事案発表から2週間以上が経過し、さすがの総理もややクールダウンして、「主意書への答弁は、予算委員会より本会議答弁を踏襲しましょう」という総理秘書官の説得に応じ、「極めて」を省くことに合意したのであろう。

 

今般のレーダー照射事案での政府見解の舞台裏

次に、今般の日韓事案における政府見解の舞台裏を考察しよう。上述のとおり、岩屋防衛大臣は、12月21日の会見で、「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為だ」と述べている。筆者は、この会見に当たって事務局が作成した「ご発言要領」(カンニング・ペーパー)に、「極めて」の語が入っていたか否か、が大変気になるところである。


少なくとも、担当者が会見発言要領の原案を作成した時点では、2013年2月27日の主意書への答弁書で用いた「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」というフレーズを直接引用していたはずだ。それでは、最終的に大臣の手にわたった想定問答に、「極めて」の語が入っていたのか、それとも入っていなかったのか。筆者は5部5部と考える。


この手の重大案件であれば、防衛大臣の発言要領であっても、安部総理まで事前に目を通すものである。「危険な行為」と記載された発言要領に対し、韓国に激昂状態の安部総理自ら、赤鉛筆で「極めて」と補い、「極めて危険な行為」と総理修正された発言要領が岩屋大臣にわたった可能性が50%。あるいは、「極めて」という副詞は付いておらず「危険な行為」との記載であった発言要領を受け取った岩屋大臣が、興奮状態の安部総理の気持ちを忖度し、会見では、発言要領には記載のない「極めて」を補って「極めて危険な行為」とアドリブで発言した可能性が50%である。


筆者が5部5部と考える理由は、12月22日の防衛省見解では、「危険な行為」「非常に危険な行為」の2つの表現を用いているものの「極めて」の語は登場していないこと、また、12月25日の定例会見での防衛大臣の発言も「極めて」を被せたり省いたりと一貫性がなかったからである。(25日の会見用の想定問答においても、「危険な行為」の前に「極めて」が付いていたかどうか不明である)

 

おそらく22日の時点で、官邸サイドからは防衛省見解に「極めて危険な行為」と明記するよう指示があったはずであるが、防衛省は、日韓全面衝突を回避するため必死に抵抗し、苦肉の策として「非常に危険な行為」という新たなフレーズを生み出したものと思料される。ただし、政府の文書で「非常に危険な行為」という表記は、22日の防衛省見解の1回切りで、年が明けると政権幹部が一様に「極めて危険な行為」の語を用いるようになる。

 

ともあれ、6年前の日中レーダー照射事案では、一時的に安部総理が「極めて危険な行為」と主張してものの、時間の経過とともに、「危険な行為」と政府見解も抑制的になっていった。それとは対照的に、今般の日韓事案では、「危険な行為」から、「非常に危険な行為」へと途中で政府見解がエスカレートし、年が明けると、官房長官までが「極めて危険な行為」といい始め、1月21日の防衛省の最終見解の文書でも「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為」と言い切ってしまったのである。

 

かくして、日本政府において、火器管制レーダー照射は「極めて危険な行為」との見解が確定した訳であるが、時間の経過とともに政府内でクールダウンが図られた6年前の日中事案と、むしろヒートアップしていった今般の日韓事案、どうしてこのような差が生じたのかも甚だ興味深い点である。

 

 

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・6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その3)「慎重かつ詳細な分析」と「慎重かつ綿密な解析」の違いを深読みする
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