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6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その3)「慎重かつ詳細な分析」と「慎重かつ綿密な解析」の違いを深読みする

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岩屋防衛大臣の会見の模様


 

2013年2月5日、防衛省は、同年1月30日に海上自衛隊護衛艦が中国海軍艦艇から火器管制レーダーの照射を受けたこと、同月19日には海上自衛隊のヘリコプターに対する中国海軍艦艇からの火器管制レーダーの照射が疑われる事案が発生していたとして、中国に申し入れを行うとともに、本件について公表した。


ここで、6年前の日中レーダー照射事案では、1月30日に護衛艦への照射を受けたとする事実を公表したのは6日後の2月5日であったこと、1月19日のヘリへのレーダー照射は「疑われる事案」として控えめの表現で断定を避けていることに注目されたい。


後ほど詳述するが、1月30日に自衛隊護衛艦がレーダー照射を受けから公表までに6日間を要した理由して、政府は「火器管制レーダーの照射を受けたと確認するまで慎重かつ詳細な分析を行っていたためである」としている。

 

他方、今般の日韓レーダー照射事案では、2018年12月20日に海自哨戒機が韓国海護衛艦からレーダ照射を受けたと、翌21日に断定的に公表された。加えて、事案発生から1ヵ月後の2019年1月21日自衛隊最終見解において、「慎重かつ綿密に解析した結果、…火器管制レーダー(STIR-180)からのレーダー波を一定時間継続して複数回照射されていたことを確認」したと述べている。

 

2月10日の本ブログ記事でも記載したとおり、6年前の日中事案と今般の日韓事案を比較して、筆者は、以下のような素朴な疑問を感じていた。

 

・照射を受けた/照射された」と断定する場合と、「照射が疑われる」と判断する場合とではその判断の根拠となる証拠の水準等において何が異なるのか?明確な判断基準はあるのか?

・2013年1月30日の事案では、「慎重かつ詳細な分析」に6日間を要していたのに、2018年12月20日の事案では翌日には照射の事実を断定し公表に踏み切っているが、この6年間の間に、自衛隊におけるレーダー解析技術が根本的・画期的に向上したのか?それとも、もしかして、12月21日の時点では、STIR-180のレーダー照射の事実は確定的に解析されていなかったにもかかわらず、見切りで断定的に公表してしまったのか?

 

筆者が抱いたこれらの素朴な疑問を、6年前の国会議事録と今般の防衛省の表現等を眺めることによって改めて検証してみよう。

 

6年前の日中レーダー照射事案での自衛隊における分析過程

前回の本ブログ記事でも触れたとおり、6年前の日中レーダー照射事案が勃発した2013年2月には、国会において頻繁に本問題が取り上げられた。ここでは、関連質疑のうち、特に発表に至る経緯についての政府側の答弁をいくつか取り上げる。

 

(1)2013年2月7日衆議院予算委員会

 前回のブログ記事でも取り上げた民主党原口一博議員による質疑の中で、中国海軍艦船からレーダー照射を受けてから公表が遅れたこと、総理への報告が遅れたことを問題視する議員の指摘に対し、小野寺防衛大臣と安部総理はそれぞれ次のように答弁している。

○小野寺国務大臣 少し経緯について説明をさせていただければと思います。
 実は、一月十九日、疑わしい事案があったということで、私、そしてこの後総理の秘書官にも報告があり、その詳細の分析を行うような状況でありました。実は、事この問題は、国際的に抗議をするということになりますと大変重要な問題になります。ですから、しっかり証拠というものを私どもは手にする必要がある、そういう思いで対応させていただきました。
 この時点では、実は、ヘリコプターでの警報でありますので、証拠というものがしっかりと国際的にも表明できるような内容になるかどうかということで、不安なこともございました。
 その後、私ども、特に私の方から運用局長の方には、今回、しっかりとした明確な違反ということが確認されたということをもって私どもとして対応したいというお話をさせていただきました。
 そのことから、今回、運用局長は、この事案が発生した後、これは証拠として間違いないという確信が出るまで精査をした上で報告が来たんだと思っております。
 いずれにしても、今回の案件というのは極めて特異的なものでありますし、また、こちらから国際的にこのような問題があると中国に抗議をするに当たっては、これはどの国が見ても間違いないという明々白々な資料を私どもとしては持つ必要がある、そのような慎重な対応をさせていただきました。

 

安倍内閣総理大臣 十九日の事案については、直ちに防衛大臣、そして私のところに上がってきたわけであります。しかし、結果として、これが中国側のレーダー照射であるということが認識できなかったということになってしまった。このことがあったものですから、事務方は三十日の事案についてより慎重になってしまって、防衛大臣、そして私のところに上がってくるのが遅くなったということだと思います。そこは、事務方の気持ちはわかるわけでありますが、基本的には、発生した時点で、それが中国側のものかどうかの確認は別として、まだ未確認ということで今後は私のところに、もちろん防衛大臣のところに上がってくるようにいたします
 と同時に、中国側も、こういう事案においては、国際社会においてある種の宣伝戦的な要素があることも事実であろう。そういう観点は日本の外交、安全保障において欠落していた観点だ、このように思いますので、ある情報については、ただ単に秘密主義に陥るのではなくて、日本の立場を強固にするもの、あるいは中国がこういう問題行動をとっているよということについては、むしろ我々は積極的に公表していくべきではないか、このように考えております。

 

(2)2013年2月8月衆議院予算委員会
 この日は、日本維新の会中田宏議員が、レーダー照射事案について中国に対し、高いレベルで抗議するなど戦略的対応が必要ではないか、という趣旨の質問を行っている。これに対する岸田外務大臣、小野田防衛大臣、安部総理の答弁を順に見てみよう。

 

○岸田国務大臣 今申し上げているように、中国の説明責任がどう果たされるか見守っていたところですが、昨日夕刻に、七日夕刻ですが、中国国防部から我が方、在中国大使館に対しまして説明がございました。その説明によりますと、日本側が対外公表した事案の内容は事実に合致していないという説明でありました。
 それに対しまして、本件は防衛省において慎重かつ詳細な分析を行った結果でありますし、我が方として確認したものであり、こうした説明は全く受け入れられないと考えておりますし、そして、その中国側とのやりとり、詳細は控えますが、この日本側の公表内容が事実に合致しないという指摘があったため、かかる指摘は全く受け入れられない旨、こちらから誠実な対応を求めた、こうしたやりとりがございました。

 

○小野寺国務大臣 今回の防衛省の分析に当たっては、火器管制レーダーの照射を受けたデータを護衛艦でしっかりと収集を行い、そして日本に持ち帰り、専門部隊で精密な分析を行って、しっかりとして、私ども公表させていただいた状況であります。間違いない状況だと思っています。

 

安倍内閣総理大臣 今回の事案については、ただいま防衛大臣から答弁したとおり、極めて慎重に精査した結果、中国側がレーダー照射を行ったことが明らかになった上で、我々は発表したわけであります。

 


(3)2013年2月13月衆議院予算委員会

 この日は、日本維新の会村上政俊議員が、証拠の開示の是非について政府の見解を問うている。村上議員自身は、「我が国の情報収集そして分析能力をいたずらに他国に知らせる必要ないと考えております」と述べた上で、「他方、公表して我が国の防衛に支障のない証拠があるのであれば、…むしろ適時適切に証拠を公表して、国際世論に対して働きかけを行っていく必要があるのではないか」との自論を示した上で、防衛大臣の考えを尋ねている。

 

○小野寺国務大臣 御指摘の今般の中国艦船の火器管制レーダーの照射事案でありますが、これは、護衛艦の機材が収集したデータを、海上自衛隊の電子情報支援隊、横須賀にありますが、ここで、このレーダーの周波数等の電波特性や護衛艦等と相手の位置関係など、現場の状況について慎重かつ詳細に分析を行った結果、我が方としては確信を持っているということでございます。
 当該の開示につきましては、中国側の反応を見きわめる必要があります。また、開示に当たっては、自衛隊の情報収集・分析能力を明らかにするおそれがあるということでありますので、関係省庁との調整を踏まえ、慎重に対応しているところであります。

 

(4)2013年2月19日付け質問主意書への答弁書
2013年2月7日に、参議院議員大野元裕氏が、レーダー照射事案に関する質問主意書を国会法第74条に基づき提出しており、2月19日付けで閣議決定を経てが答弁書が回答されている。「1月30日の事案については、当初よりレーダー照射の疑いがあったのに二月五日まで公表しなかった理由について示されたい。」との質問に対し、内閣は次のとおり答弁している。

1月30日の事案について同年2月5日まで公表しなかったのは、海上自衛隊護衛艦が中国海軍艦艇から火器管制レーダーの照射を受けたと確認するまで慎重かつ詳細な分析を行っていたためである。

 

(5)2013年2月17日参議院予算委員会
 この日は、民主党・新緑風会福山哲郎議員が、レーダー照射事案について、当時の現場の具体的な状況、1月30日の事案について大臣への報告まで6日を要した理由等について質問しており、政府参考人、小野寺防衛大臣、安部総理は次のように答弁している。

○政府参考人(黒江哲郎君) まず、一月十九日の事案でございますけれども、同日の午後五時ごろ、東シナ海の公海上で、警戒監視活動中の護衛艦「おおなみ」搭載のヘリコプターが飛行中に機内で火器管制レーダーの照射を受けた可能性があると、これを知らせます警報が鳴ったということでございます。同海域には中国海軍のジャンカイⅠ級のフリゲートが所在しておりまして、これからの照射が疑われる事案であったということでございます。
 また、三十日の件は、午前十時ごろ、同じく東シナ海の公海上で、警戒監視活動中の護衛艦「ゆうだち」が同海域に所在しておりました中国海軍のジャンウェイⅡフリゲートから火器管制レーダーを照射されたということを艦内で探知をしたということでございます。
 いずれの事案におきましても、先ほど委員御指摘のとおり、極めてこれは特異な事案でございますので、艦内、乗員は極めて強い緊張状態に置かれたわけでございますけれども、いずれの事案におきましても、機長及び艦長の指示に基づきまして状況を確認して適切な回避行動を取ったという、そういうことでございます。

 

国務大臣小野寺五典君) 
 一月十九日に報告があったときには、これはもう私ども大変なことだと思いましたが、本当にこれは間違いないのかと、非常に特異的なことですので間違いないのかということを確認をさせていただきましたが、実はその時点ではしっかりとしたデータ、情報が我が方では記録をすることができておりませんでした。三十日の時点で記録を取ったということだと思いますが、私も後からちょっと事務方にお伺いすると、残念ながら、やはりしっかりとしたこれはデータを解析した上で報告しようということで私どもに上がってきたと思っております。
 今後このようなことがないようにしっかり私ども指摘をしていきたいと思っておりますが、ただ、一つお答えをさせていただきたいと思えば、実はこの日程については、確かに、遠隔地にあってデータを運ぶ手段がほかになかったということで、今回は艦船を使って運ばせていただきました。そして、しっかり私どもとしては分析をさせていただきましたが、ただ、是非知っていただきたいのは、非常にこれは、例えば対外的に抗議をするにしても大変重い課題になります。ですから、最終的には、しっかり情報を分析して証拠をしっかり固めてから私どもとしては対応させていただくということだと思っております。

 

○政府参考人(黒江哲郎君) 当日の状況等々につきましては、委員御指摘のとおり、艦内におきましてレーダー照射が探知されているということは当然理解をされておるわけでございます。他方、先ほど大臣から御答弁申し上げましたけれども、外交的な手段を取るということの前提として、極めて確度の高いデータであるということを検証するということも我々必要だというふうに考えまして、そういう意味で、私のところでこれについてまず判断をした上で御報告をしようということで判断をしたところでございます。
 その件については、先ほど来大臣からも御指摘ございましたけれども、今後速やかな対応をするようにということで、その指示に従ってまいりたいというふうに考えております。

 

内閣総理大臣安倍晋三君) この十九日の事案については、先ほど防衛大臣から答弁をさせていただきましたように、これは中国側の照射であるということについて、我々が完全にその段階では、十九日の段階では、我々、言わば証拠として証明するということができるという状況ではなかったということもございました。


6年前の日中事案 国会質疑から分かること

これらの国会質疑から、以下のことが事実認定できる。

 

(1)1月19日に、海自のヘリコプターが、中国海軍艦船からレーダー照射を受けた疑い事例については、機内で火器管制レーダーの照射を受けた可能性ことを知らせる警報が鳴り、事案発生後、速やかに防衛大臣や総理まで報告された。

しかし、ヘリコプターでの警報に過ぎず、しっかりとしたデータ、情報が記録されていなかったため、どの国が見ても間違いないという明々白々な資料(証拠)が得られなかったため、1月19日の事案については最終的に「疑い事案」という表現に留めることとなった。

 

(2)1月30日に海自護衛艦がレーダー照射を受けた事例については、1月19日のヘリ事案の反省を活かし、「証拠として間違いないという確信が出るまで精査」を行い、国際的にも表明できるような「極めて確度の高いデータであるということを検証」した上で、2月5日に中国側への申し入れ(抗議)し、公表に踏み切ったとのことである。

この間の具体的なプロセスとしては、まず、護衛艦においてデータをしっかりと収集し、護衛艦の機材が収集したデータを艦船を使って横須賀にある海上自衛隊の電子情報支援隊まで運び、そこで「レーダーの周波数等の電波特性や護衛艦等と相手の位置関係など、現場の状況について慎重かつ詳細に分析を行った」結果、レーダー照射が行われたと確信を持つに至った。

このように、「しっかり情報を分析して証拠をしっかり固め」るために、事案発生から、申し入れ・公表まで6日間を要したとのことである。

 

(3)1月30日の事案発生後、横須賀の電子情報支援隊において実施された「レーダーの周波数等の電波特性や護衛艦等と相手の位置関係など、現場の状況について慎重かつ詳細に分析」した証拠固めの作業について、「専門部隊で精密な分析」「極めて慎重に精査」などの表現も答弁で用いられているが、政府の公式表現は、2月19日付の質問主意書への答弁書に記載された「慎重かつ詳細な分析」である。

ちなみに、「慎重かつ詳細な分析」というフレーズの初出は、2月8日の岸本外務大臣の答弁である。

 

今般の日韓レーダー照射事案における自衛隊での分析過程

以上、6年前の日中レーダー照射事案における「慎重かつ詳細な分析」等の経緯を頭に入れた上で、今般の日韓レーダー照射事案の経緯について再確認してみよう。

 

その前に、今般の日韓レーダー事案で、照射の事実関係を巡って、日韓で争点となった論点について復習しておこう。防衛省は12月21日に、韓国駆逐艦から海自哨戒機が火器管制レーダー照射を受けたと断定的に公表した。この時点で、火器管制レーダーの具体的機種名を日本側は公表していなかったが、STIR-180というレーダーを指すものとの前提のもとに、その後、論争が続く。

韓国側は、24日に、他のレーダーは稼動していたが、STIR-180からレーダー波は照射しておらず、他のレーダー波を自衛隊が誤認したのではないかと主張。12月25日の大臣会見で、記者から、STIR-180のレーダー波を探知したのかズバリの回答を求められた際、岩屋大臣は茶を濁して明言を避けている。その後、2019年1月21日に、防衛省が最終見解を発表し、その中で、STIR-180からのレーダー波を一定時間継続して複数回照射されていたことを確認したと明言した。


それでは、このあたりの経緯を、防衛省の発表文書や防衛大臣の会見での発言をから、改めて振り返ってみよう。時系列に羅列する。


(1)2018年12月22日の防衛省見解
防衛省のホームーページに掲載された韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について」(第2報)において、次のように記載されている。
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/22a.html

 本件について、種々の報道がなされていますが、防衛省としては、20日(木)のレーダー照射事案の発生後、海自哨戒機の機材が収集したデータについて、慎重かつ詳細な分析を行い、当該照射が火器管制レーダーによるものと判断しています。

 

(2)2018年12月25日の防衛省見解
防衛省のホームーページに掲載された韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について」(第3報)において、次のように記載されている。
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/25b.html

本件について、昨日、韓国国防部が見解を発表していますが、防衛省としては、事実関係の一部に誤認があると考えています。

まず、防衛省では、20日(木)のレーダー照射事案の発生後、海自P-1の機材が収集したデータを基に当該駆逐艦から発せられた電波の周波数帯域や電波強度などを解析した結果、海自P-1が、火器管制レーダー特有の電波を、一定時間継続して複数回照射されたことを確認しております。

 

(3)2018年12月25日の防衛大臣定例会見

12月25日の昼前に行われた大臣会見では、レーダー照射問題について質問が相次ぎ、次のようなやり取りが行われている。
http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2018/12/25a.html

Q:これまでのところ、見解の食い違いがあらわなわけですけれども、この背景には何があると大臣はお考えでしょうか。
A:背景というよりも、私どもも海自が収集したデータを慎重に解析をした結果、照射があったことは事実だというふうに考えております。事柄の重大性に鑑みて、やはり、遺憾の意を表した上で再発防止を強く申し入れる必要があったということでございます。冒頭に申し上げたように、韓国側の見解が返ってきましたが、そこに不一致の点があるので、これについては、今後、当局間でしっかり協議をしたいと思っております。

 

Q:韓国側の主張で、大臣が金曜日に発表されたときに、日本側の事実確認がないまま発表したことに対して韓国側から遺憾の意が表明されているのですが、この件に関してはどうお考えですか。
A:これも先ほど申し上げたように、やはり火器管制レーダーを照射するというのは、不測の事態を招きかねない極めて危険な行為であって、防衛省側の、海自側の分析で、照射を受けたことは明らかだということが分かりましたので、速やかに遺憾の意を表し、再発防止を申し入れる必要があったというふうに判断したからでございます。

 

Q:韓国側は射撃管制用のレーダーと、火器管制用のレーダーを使い分けて、いわゆるMW-08のレーダーとSTIRのレーダーを使い分けていると説明していると思うのですが、そのSTIRの方は使っていないという説明だと思うのですが、日本側が探知をして発表に至ったのは、STIRを感知したということでしょうか
A:その中身を逐一、詳細に申し上げるわけにもいかないと思いますが、防衛省側はおっしゃったようなことも含めて、海自側は分析をしております

 

(4)2019年1月21日 防衛省の「最終見解」
2019年1月21日に防衛省「韓国レーダー照射事案に関する最終見解」を公表した。この中では、レーダー照射が行われた証拠として、以下のように記載されている。
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2019/01/21x_1.pdf

 

防衛省の専門部隊で海自P-1 哨戒機に照射されたレーダー波の周波数、強度、受信波形などを慎重かつ綿密に解析した結果、海自 P-1 哨戒機が写真撮影等を実施した韓国駆逐艦の火器管制レーダー(STIR-180)からのレーダー波を一定時間継続して複数回照射されていたことを確認しています。なお、近傍に所在していた韓国警備救難艦には、同じレーダーは搭載されておらず、韓国駆逐艦からの照射の事実は、防衛省が昨年12 月28 日に公表した動画の内容からも明らかです。

 

今般、防衛省としては、火器管制レーダー照射の更なる根拠として、海自P1 哨戒機の乗組員が機上で聞いていた、探知レーダー波を音に変換したデータを、保全措置を講じた上で、防衛省ホームページにおいて公表することとしました。

 

一般に、火器管制レーダーは、ミサイルや砲弾を命中させるために、目標にレーダー波を継続的に照射して、その位置や速度等を正確に掴むために用いるものであり、回転しながらレーダー波を出して、周囲の目標を捜索・発見するための捜索レーダーとは、波形などのデータに明確な違いがあります。このため、レーダー波を解析すれば、その種類や発信源の特定が可能であり、今回、海自 P-1 哨戒機に照射されたレーダー波は、火器管制レーダー特有の性質を示していました。

 

防衛省の解析結果等から、このレーダー波が、海自 P-1 哨戒機が写真撮影等を実施した韓国駆逐艦の火器管制レーダーから発せられたことは明らかですが、客観的かつ中立的に事実を認定するためには、相互主義に基づき、日本が探知したレーダー波の情報と、韓国駆逐艦が装備する火器管制レーダーの詳細な性能の情報の双方を突き合わせた上で総合的な判断を行うことが不可欠です。

 

こうしたことから、防衛省は、本年1 月14 日の実務者協議において、相互主義に基づき、解析結果のもととなる探知したレーダー波のデータやレーダー波を音に変換したデータなど事実確認に資する証拠と、韓国駆逐艦の火器管制レーダーの性能や同レーダーの使用記録などを、情報管理を徹底した上で突き合わせ、共同で検証していくことを提案しましたが、受け入れられませんでした。

今般の日韓事案おける照射事実分析過程の疑問点

今般の日韓レーダー照射事案について12月21日の公表から翌年1月21日の最終見解の発表までの経緯を振り返ってみたところで、次のような疑問が浮んでくる。

 

(1)6年前の日中レーダー照射事案では、事案発生から横須賀の電子情報支援隊での「慎重かつ詳細な分析」により証拠固めをして対外的に公表するまで6日を要しているが、今般の日韓事案では、事案が発生した翌日にはその事実を公表し、韓国に申し入れを行っている。

昨年12月22日の防衛省見解では、「海自哨戒機の機材が収集したデータについて、慎重かつ詳細な分析を行い、当該照射が火器管制レーダーによるものと判断」したとされているところ、ここでいう「慎重かつ詳細な分析」とは、6年前の日中事案における場合と同様、電子情報支援隊における分析を経たものなのだろうか。それとも、この時点で、電子情報支援隊における結論は得られておらず、レーダー照射を受けた確証が得られていない段階で、見切り発車で断定的に公表したのだろうか。

 

(2)仮に、12月21日、あるいは22日の時点で、横須賀の電子情報支援隊における分析が完了していなかったとした場合、いつの時点で、電子情報支援隊の分析の最終結論が得られたのであろうか。

 

(3)12月25日の記者会見で、「日本側が探知をして発表に至ったのは、STIRを感知したということでしょうか」と質問された際、岩屋防衛大臣は、「その中身を逐一、詳細に申し上げるわけにもいかないと思いますが、防衛省側はおっしゃったようなことも含めて、海自側は分析をしております」と歯切れが悪い回答をしている。

この時点で、STIR-180の照射を受けていたという電子情報支援隊の最終結論はまだ得られていなかったのだろうか。それとも、最終結論は得られていたが、大臣にはまだ報告されていなかったのだろうか。あるいは、大臣自身、既に電子情報支援隊の分析結果を報告は受けていたものの、STIR-180照射に係る事実の公表等についての政府内での対応方針が未確定であったことから、25日の会見では茶を濁していたのだろうか。

 

(4)1月21日の最終見解において、「防衛省の専門部隊で海自P-1 哨戒機に照射されたレーダー波の周波数、強度、受信波形などを慎重かつ綿密に解析した結果、海自 P-1 哨戒機が写真撮影等を実施した韓国駆逐艦の火器管制レーダー(STIR-180)からのレーダー波を一定時間継続して複数回照射されていたことを確認しています」と述べているが、ここでいう「慎重かつ綿密な解析」は6年前の日中レーダー照射事案における「慎重かつ詳細な分析」と同程度の内容の解析を意味するのだろうか。それとも、6年前の日中事案の際の分析とは量的・質的にも異次元の緻密な精査を行ったのだろうか。

 

ブログ主の見解

今般の日韓レーダー照射問題発生後の自衛隊における照射事実の分析過程についての上述の疑問点について、ブログ主の大胆予測による見解を示しておこう。


2013年1月19日、海自の護衛艦搭載ヘリコプターにおいて、中国海軍艦船からレーダー照射を疑われる事案が発生した際には、機内で火器管制レーダーの照射を受けた可能性があることを知らせる警報が鳴ったものの、照射の事実を確証するに足るデータが得られていなかった。

 

一方、同年1月30日に海自護衛艦がレーダー照射を受けた際には、照射を受けたデータを護衛艦で収集し、横須賀の電子情報支援隊で「慎重かつ詳細な分析」を行った上で、照射の事実を断定した経緯がある。

 

6年前の日中事案発生時には、国会において、事案発生後の大臣・総理への報告や公表が遅滞したと与野党双方から批判されたこともあり、その後、海上自衛隊における火器管制レーダー照射に対する警戒閾値や対処能力は大幅に強化されたであろうことが推量できる。

 

そして、2018年12月20日の事案では、元よりP1哨戒機はレーダー照射に対処する電子戦対応能力が高いとされており、2013年1月19日に疑い事例が報告されたヘリコプターと比較すると、かなり精度の高い照射関連データが収集されていた可能性が高いと思われる。

 

しかしながら、P1哨戒機内において、照射されたレーダーの機種等を詳細に解析することは不可能であり、STIR-180レーダーが照射されたことを証明するためには、地上で専門的な解析作業を行うことが不可避である。そして、その解析作業は、検証・確認プロセスなども含め一定の時間を要するはずであり、「証拠として間違いないという確信が出るまで(の)精査」(2013年2月7日の小野寺防衛大臣の答弁)が翌21日までに終了していたとは到底考えられない

 

すなわち、昨年12月22日の防衛省見解では、「海自哨戒機の機材が収集したデータについて、慎重かつ詳細な分析を行い、当該照射が火器管制レーダーによるものと判断」したとされているものの、21日の公表時点で、電子情報支援隊における「慎重かつ詳細な分析」は完了していなかったはずである。

 

なので、防衛省としては、12月21日の時点において、火器管制レーダー(STIR-180)の照射を受けた確証が得られていないとして、公表に踏み込むことには躊躇していた。けれども、安部総理自身の強い執着により、公表を余儀なくさせられたのであろう

 

さらに言えば、防衛省内では、12月20日に発生した事案を12月21日の時点において、防衛大臣や総理にまで報告することさえ慎重論があったに違いない。「安部総理の性格を考えると、未確定段階でも公表しろ、韓国に抗議しろ、と言い出す可能性が高い。公表後に誤認だと判明すると、取り返しがつかなくなるぞ。」「だけど、2013年2月7日衆議院予算委員会において安部総理が、「今後は(レーダー照射事案が発生すると)未確定であっても総理まで報告させる」旨明言しているので、報告せざるを得ない。」防衛省幹部の深刻な討議の模様が目に浮かぶ。

 

安部総理としては、12月21日の時点でレーダー照射事案について公表することにより、平成最後の天皇誕生日前後の年末・クリスマス前の3連休において、報道番組でこの話題が集中的に取り上げられることが期待でき、反韓世論の醸成と愛国意識の鼓舞による政権浮揚の好機と判断したに違いない。

 

12月22日の防衛省見解で、「慎重かつ詳細な分析を行い、当該照射が火器管制レーダーによるものと判断」したと記載されているが、この時点で、横須賀の電子情報支援隊での分析が完了していないのであれば、6年前の日中事案後に質問主意書への答弁書で用いた「慎重かつ詳細な分析」というフレーズを転記すべきではなかったのである。

 

12月22日の防衛省見解で、「慎重かつ詳細な分析」というフレーズを用いたのは明らかなチョンボ(判断ミス)であり、見解を出した後にそのチョンボに気づいたからこそ、12月25日の防衛省見解では「慎重かつ詳細な分析」というフレーズは用いず、それ以後もこのフレーズは封印されることになったのだ。

 

おそらく、12月25日の時点で、横須賀の電子情報支援隊での客観的・実証主義的な「慎重かつ詳細な分析」は一旦終了していたであろうが、電子情報支援隊での分析をもってしてもこの時点で、STIR-180レーダーの照射を確証できていなかったのではなかろうか。

 

その後、正月を跨いで、日韓トップレベルでの対立が持続する中で、安部総理の意向を忖度して、客観的・実証主義的な「慎重かつ詳細な分析」を超越した更に高度な異次元での「慎重かつ綿密な解析」を行った結果として、1月21日の最終見解において、STIR-180からのレーダー波の照射を確定的に結論付けたのだろう

 

「慎重かつ綿密な解析」の結果として、STIR-180からレーダー波が照射されたと最終見解で断言してはいるものの、一方で、「防衛省の解析結果等から、このレーダー波が、…韓国駆逐艦の火器管制レーダーから発せられたことは明らかですが、客観的かつ中立的に事実を認定するためには、相互主義に基づき、…双方を突き合わせた上で総合的な判断を行うことが不可欠です。」と述べており、自信なさげである。


さらに言えば、1月21日の最終見解は、自衛隊による「慎重かつ綿密な解析」が「客観的かつ中立的な事実認定」ではないことを自白しており、相互主義の名の下に、韓国側にとって不利益が大きく、韓国側が拒絶するであろうことが明らかな条件を突きつけた上で、検証を拒む韓国は不誠実だと一方的に抗議し、本件の幕引きを企てた防衛省の姿勢からは、彼らが「慎重かつ綿密な解析」について疚しさを感じていることが滲み出ていて痛々しい

 

(註)防衛省は、日韓レーダー照射問題について、ご丁寧に英語、韓国版のサイトも設けているが、「慎重かつ詳細な分析」の英訳はcareful and detailed analysis、 「慎重かつ綿密な解析」はcareful and meticulous analysisと訳しているようだ。

 

 

 

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 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/06/235000

・日韓レーダー照射問題はメディア・リテラシークリティカル・シンキング好材料である
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/08/235500

・6年前の日中レーダー照射事案との対比において、今般の日韓事案を再考する(その1)
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/10/174500

・6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その2)「危険な行為」と「極めて危険な行為」の差異
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/12/233000