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6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その2)「危険な行為」と「極めて危険な行為」の差異

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2013年当時の防衛大臣(小野寺大臣)

 

日韓レーダー照射問題については、ごく一部に、そもそも、韓国駆逐艦から海自哨戒機に対しSTIR-180火器管制レーダーは照射されておらず、日本政府・自衛隊によるでっち上げ策動だ、とする論者も存在するようだが、さておき、火器管制レーダーの照射は客観的にどの程度の脅威を及ぼすものだろうか。レーダー照射の危険性について、いわゆる軍事評論家の間でも多様な見解が存在することは、以前本ブログでも指摘してきたとおりである。

 

では、政府及び自衛隊の火器管制レーダー照射について危険性認識は、と言うと、昨日のブログ記事で紹介したとおり、6年前の2013年1月中国海軍艦艇からの火器管制レーダー照射事案が発生した際、当時、政府は火器管制レーダー照射について「危険な行為」だという見解を示していた。ところが、今般の日韓レーダー照射問題の発生後、現在では政府は、火器管制レーダー照射について「極めて危険な行為」であると解釈を変更したようだ。

 

単に「危険な行為」というのと、「極めて危険な行為」と表出するのとでは、日本語使用者にとって、危険の度合に大きな差異を認識せしめることは言うまでもない。

 

今回は、今般の日韓レーダー照射事案と6年前の日中レーダー照射事案が発生した際、政府の文書や閣僚が、火器管制レーダーの照射の危険性についてどのような表現を用いてきたかを時系列で振り返りながら、「危険な行為」から「極めて危険な行為」へと危機認識のレベルが上方軌道修正された背景事情について簡単に考察してみたい。

 

6年前の日中レーダー照射事案の政府の危険性認識

<1.小野寺防衛大臣の臨時記者会見>

6年前の日中レーダー照射事案は、2013年2月5日の小野寺防衛大臣の臨時記者発表によって明るみになった。この会見で、小野寺大臣は、火器管制レーダーの照射について、「大変異常なことであり、これが一歩間違うと大変危険な状況に陥る」「一歩間違うと、大変危険な事態が派生する状況」「特異的な例」「極めて特異的」と表現している。
また、記者から「軍事衝突の可能性」もあったのか認識を聞かれ、「そこまでの衝突事案とは類推はしておりませんが、少なくとも現場には緊張感が走る、そのような事態だったと思っております」と回答している。

 

<2.参議院本会議での総理答弁、質問主意書への答弁書

翌2月6日には、参議院本会議で代表質問が行われ、民主党の金子洋一議員からの質問に対し、安部総理は「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」と答弁している。


2月6日に初出の「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」というフレーズは、その後、2月26日付の質問主意書への答弁書でも使用されており、火器管制レーダー照射に関する日本政府(内閣)の公式見解として確定した。

衆議院議員石川知裕君提出中国艦船による我が国の海上自衛隊護衛艦への射撃用レーダー照射を巡る一連の政府の対応に関する質問に対する答弁書

 

「御指摘の「中国艦船による射撃用レーダー照射」は、不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾であると考えている。政府としては、中国側に対し、外交ルートを通じて抗議を行ったところであり、引き続き、中国側が説明責任を適切に果たし、再発防止のために誠実に対応するよう求めていく考えである。」
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b183023.htm

 

2013年2月の国会では、レーダー照射事案に関連する質疑が相次いでいる。

 

<3.衆議院予算委員会での防衛大臣、総理の答弁>

2月7日の衆議院予算委員会では、石破茂議員の質問に対し、小野寺大臣が、「衝突に相当する、危険な事案に至る可能性がある」と答弁している。(あれあれ、2日前の5日の緊急記者会見での「そこまでの衝突事案とは類推はしておりません」という発言と齟齬があるように思うが、ここではこれ以上突っ込まないこととする)

 

同日の衆議院予算委員会では、民主党原口一博議員もレーダー照射問題について細かく質問しており、安部総理は、

「今回の中国のとったレーダー照射という行為は、極めて特異であり、そしてまた極めて危険な行為であります。偶発的な、エスカレートにもつながるという危険性を持っている行為であります」

と発言している。ここで、安部総理の口から、「極めて危険な行為」という発言が初めて登場する。前日の参議院本会議では、「極めて」という冠はつけず「危険な行為」と答弁しており、1日で総理の危険認識が高まったことは注目点だ。

 

2月12日の衆議院予算委員会では、公明党の高木美智代議員が質問しているが、安部総理は、「極めて挑発的、危険な行為」と、ここでも「極めて」という副詞を冠につけている。

 

 <4.参議院予算委員会での総理答弁>

2月27日の参議院予算委員会では、民主党福山哲郎議員が質問しているが、安部総理は、

不測の事態を招きかねない極めて危険な行為であり、遺憾であります

と答弁している。
その前日の26日に閣議決定された質問主意書への答弁書では、上述のとおり、「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」と記載されており、「極めて」という副詞の挿入位置が微妙に異なっていることに気付くだろう。


福山議員の国会質問に対し事務方が事前準備した総理答弁案(カンニング・ペーパー)では、事務方は、主意書の答弁書でのフレーズを忠実に転用し「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」という表現を使用していたはずだ。だけど、安部総理自身の強いこだわりとして、あるいは、単純な誤読で「極めて」の位置を変化させたのだろう。一連の総理の発言を踏まえると、単純な答弁の読み誤りではなく、総理自身の強い意志表示として、「極めて危険な行為」と発言した可能性が高いと思われる。

 

<5.総理の施政方針演説>

翌28日の衆議院及び参議院の双方の予算委員会での安部総理の施政方針演説では、レーダー照射問題について

「先般の我が国護衛艦に対する火器管制レーダー照射のような、事態をエスカレートさせる危険な行為は厳に慎むよう、強く自制を求めます。」

と発言している。
安部総理嫌いの人たちであれば、ここで「おいおい、事態をエスカレートさせているのは「極めて危険」などと必要以上に国民の危機意識を煽って、好戦的な世論形成を目論んでいるオマエのほうだろうが(怒)」と突っ込みを入れるのだろうが、ともあれ、施政方針演説において「極めて危険」というフェーズを用いることは、さすがの安部総理も自制していたようだ。

 

<6.参議院外交防衛委員会での防衛大臣答弁> 

その後、国会において日中レーダー照射事案についての言及はひと段落するが、2013年10月29日の参議院外交防衛委員会における所信演説で、小野寺大臣は、我が国周辺の海空域においても、

「昨年十二月に領空侵犯事案が、本年一月には海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案が発生するなど、不測の事態を招きかねない危険な行為が行われています。」

と述べ、主意書答弁等で用いられた「不測の事態を招きかねない危険な行為」というフレーズを踏襲している。

 

<7.2016年の中谷防衛大臣の答弁>

2016年2月5日の衆議院予算委員会第1分科会での予算審議の際の自民党大西宏幸議員の質問に対し、当時の中谷元防衛大臣は、

火器管制レーダーの照射というのは、基本的に火器の使用に先立って実施する行為でありまして、これを相手に照射することは不測事態を招きかねないものでありまして、危険な行為であると認識をいたしております

と答弁している。小野寺大臣からバトンタッチされた中谷大臣も、「不測の事態を招きかねない危険な行為」という答弁ラインを踏襲していたのである。

 

<8.小括>

以上、6年前の日中事案の発生時の火器管制レーダー照射についての政府の認識をたどってみた。結論としては、政府の公式見解として「不測の事態を招きかねない危険な行為」というフレーズが確立しており、2013年2月6日の参議院本会議での小野寺大臣の答弁、2月26日付の主意書への答弁書、10月29日の参議院外交防衛委員会における小野寺防衛大臣の所信演説、2016年の中谷防衛大臣の答弁では、このフレーズが用いられていた
それに対し、安部総理は、「極めて」という強調語を被せて「極めて危険な行為」というフレーズを6年前の事案において好んで用いていたのであった。

 

次に、今般の日韓レーダー照射事案における政府の言葉遣いを時系列で見てみよう。

 

今般の日韓レーダー照射事案の政府の危険性認識

 <1.岩屋防衛大臣の会見>

12月21日19時頃に防衛省内ロビーに行われた臨時会見で、岩屋防衛大臣は、「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為だ」と述べている。
また、共同通信によると、同日夜のBSフジ番組で、岩屋大臣は、「攻撃直前の行為だ。不測の事態を招きかねず、韓国側にはきちんと説明してもらいたい」と発言したらしい。
6年前の小野寺大臣は、「極めて危険」といった言い回しをしておらず、また、最初の会見では「そこまでの衝突事案とは類推はしておりません」と抑制的なトーンであったのに対し、岩屋大臣は、6年前の安部総理と同様、「極めて危険な行為」という表現を用いるとともに、「攻撃直前の行為」と踏み込んだ発言をしているのが印象的だ。

(ただし、BSフジ番組で、実際に「攻撃直前の行為だ」と述べたのかどうか真相は不明である。共同通信が記事作成時に、実際の発話に手を加えた可能性も否定できない)

 

<2.12月22日の防衛省見解>

翌22日に、防衛省は「韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について」という見解を書面で発表(ホームページに掲載)する。

「火器管制レーダーの照射は、不測の事態を招きかねない危険な行為であり、仮に遭難船舶を捜索するためであっても、周囲に位置する船舶や航空機との関係において、非常に危険な行為です。」

これは、実に味わい深い官庁文学表現である。この一文の前半部分では、一般論として火器管制レーダーの照射は「不測の事態を招きかねない危険な行為」であると6年前からの政府公式見解を踏襲しつつ、後半部では、「周囲に位置する船舶や航空機との関係において」は「非常に危険な行為」であるとの見解を創出しているではないか

 

<3.12月25日の定例会見での防衛大臣の発言>

12月25日の閣議後定例会見ではレーダー照射問題が質問の太宗を占めているが、岩屋大臣は、ある質問に対しては、「不測の事態を招きかねない危険な行為」と「極めて」を付けずに発言し、その後の別の質問に対しては「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為」と「極めて」の語ありで回答している。

(参考)記者会見での小野寺大臣の発言

A:そこは、大局に立ってものを考えなければいけないと私は思います。本事案については、今、おっしゃったように、不測の事態を招きかねない危険な行為であったことは事実でありまして、そのことは指摘をし、再発防止を求めていくという姿勢に変わりはありませんが、とはいえ、韓国が敵対国であるかというと、それは決してそういうことはない。また、わが国の安全保障というものを考えても、日韓の防衛当局間の関係、日米韓の関係というのは、極めて重要であるということに変わりはないというふうに考えております。


A:これも先ほど申し上げたように、やはり火器管制レーダーを照射するというのは、不測の事態を招きかねない極めて危険な行為であって、防衛省側の、海自側の分析で、照射を受けたことは明らかだということが分かりましたので、速やかに遺憾の意を表し、再発防止を申し入れる必要があったというふうに判断したからでございます。

 

 <4.菅官房長官の定例会見発言>

年が開け、2019年1月7日には、菅官房長官が午前の定例会見で、レーダー照射問題について

極めて危険な行為で、このような事案が発生したことは遺憾だ

と発言している。

 

<5.防衛省の最終見解>

そしていよいよ、2019年1月21日の「韓国海駆逐艦による自衛隊機への火器管制レーダー照射に関する防衛省の最終見解について」である。

「火器管制レーダーの照射は、火器の使用に先立って実施する行為であり、他国の航空機に向けて、合理的な理由もなく照射することは、不測の事態を招きかねない極めて危険な行為です」

この最終見解によって、6年前の日中レーダー照射事案発生後に確定した「不測の事態を招きかねない危険な行為」とする政府公式見解は事実上破棄され、危機認識の水準が「極めて危険」と最高レベルにまで引き上げられたのである。

 

<6.部隊視察先での防衛大臣訓示>

1月25日には、岩屋防衛大臣は、海上自衛隊厚木航空基地の部隊を視察したが、時事通信によれば、レーダー照射事案について「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為で、防衛省として韓国側に抗議するとともに、事実を認め再発防止を徹底するよう強く求めている」と訓示している。

 

2013年日中レーダー照射事案での政府見解の舞台裏

2013年2月5日夕刻の臨時記者発表において、小野寺防衛大臣は、「大変異常」「一歩間違うと大変危険な状況に陥る」「特異的」という用語を用いているものの、「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」というフレーズは使用してない。おそらく、この臨時会見時点で、まだこのフレーズは創出されていなかったのであろう。

 

では、いつ、どのようなプロセスで、このフレーズが構築されたのか。それは、2月5日の夜、民主党金子洋一議員から、代表質問追加の緊急通告があり、これを受けて、防衛省、外務省、首相官邸における最高幹部の徹夜の協議を経て創作されたフレーズであると推定できる。

まず、防衛省で答弁原案を作成し、外務省の協議を経た時点で、両省では、レーダー照射事案について、「危険な行為」という程度の表記を用いることに異論なく、「極めて」という強調語を付することは頭の片隅にもなかったに違いない

ところが、答弁案が完成し、総理秘書官等が安部総理にレクをした時点で、総理の口から、「危険な行為では弱すぎる。「極めて」を頭に持ってくるべきだ」と強い主張が発せられたのではないか。それに対し、レクに同席した防衛省、外務省の幹部は、「客観的状況認識として、たかだかレーダー照射について「極めて危険」とまで言うべき事態ではない」「「極めて危険」と総理が発言してしまうと、中国が反発し、両国間の緊張が益々強まってしまう」と抵抗したはずだ。

総理と防衛/外務両省幹部の答弁案に対する問答に対し、総理秘書官が折衷案として、「それでは、「危険な行為」の前に「極めて」は付けづに、その替わりに「極めて遺憾」という言葉を補いましょう」と提案。総理と防衛/外務両省幹部が折り合って、「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」というフレーズが出来上がったのは、代表質問の答弁の直前のことであろう。

 

2月6日の代表質問に対する答弁では、安部総理は、このフレーズを棒読みしたものの、本心では納得していない。反中国強硬派の急先鋒である安部総理としては、「極めて危険な行為」と発言して、中国を批判したくてたまらない。

翌7日の衆議院予算委員会民主党原口議員及び12日の公明党高木議員からの質問通告に対し、事務方が作成していた答弁案では、6日の答弁と同様、「危険な行為」と記載されていたに違いない。にもかかわらず、安部総理は、自らの判断で、わざわざ「極めて」を補って「極めて危険な行為」と発言してしまった。この答弁を聞いていた、防衛省、外務省の幹部は卒倒したはずだ。これで日中対立の泥沼化は不可避だ、と。

 

ここで、安部政権批判派ならば「極めて」の追加を「好戦的な安部総理一人の暴走」と批判するだろうが、筆者は、必ずしも総理一人の暴走ではなく、民主党公明党にも大きな原因があると考える。安部総理としては、民主党・原口議員と公明党・高木議員が、質問の中で、レーダー照射事案についてどのような見解を示すか、注意深く聞いていたはずだ。
「もし、両党が、レーダー照射について強行姿勢であれば、「極めて」の語を補い、両党が抑制的なトーンであれば「極めて」は省こう。」安部総理はそう考えていたに違いない。
果たして、民主党原口議員は、質疑の中で、「照射をするというのは、もうまさにこれは攻撃行為そのものととられても仕方がない」「攻撃行為だとすると、看過できない行為である、国際法上も大問題であるというふうに私は考えます」と中国を厳しく批判。これを聞いて、安部総理は、心の中で大きくガッツポーズをしたはずだ。「よしよし、「極めて危険な行為」と答弁しよう」。


5日後の12日には、公明党高木議員が質問に立った。公明党というと、連立与党でありながら、平和志向の宗教政党であり、そもそも総理は肌が合わない。その高木議員が質問の中で、「中国海軍フリゲート艦による火器管制レーダー照射という極めて重大な事案が発生をいたしました。これは戦闘行為に入る直前の事態であり、国連憲章にも抵触するおそれのある行為で、極めて遺憾と言わざるを得ません。」と発言。これを聞いて、安部総理は、またしてもガッツポーズ。「よしよし、公明党までも「極めて重大」とか言って中国批判をしているので、安心して「極めて危険な行為」と答弁しよう。」

 

ともあれ、民主党公明党の両党の対中国強硬姿勢に触発されて、安部総理は2月7日に「極めて危険な行為」と発言しちゃった訳であるが、2月26日付の主意書への答弁書では、「極めて」は再び省略され、「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」という2月6日の参議院本会議でのフレーズに戻ったのである。
もしかすれば、主意書への答弁書の決裁時点でも、総理は「危険な行為」という案から「極めて危険な行為」へと表現のアップグレードを主張したのかも知れない。だけど、事案発表から2週間以上が経過し、さすがの総理もややクールダウンして、「主意書への答弁は、予算委員会より本会議答弁を踏襲しましょう」という総理秘書官の説得に応じ、「極めて」を省くことに合意したのであろう。

 

今般のレーダー照射事案での政府見解の舞台裏

次に、今般の日韓事案における政府見解の舞台裏を考察しよう。上述のとおり、岩屋防衛大臣は、12月21日の会見で、「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為だ」と述べている。筆者は、この会見に当たって事務局が作成した「ご発言要領」(カンニング・ペーパー)に、「極めて」の語が入っていたか否か、が大変気になるところである。


少なくとも、担当者が会見発言要領の原案を作成した時点では、2013年2月27日の主意書への答弁書で用いた「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾」というフレーズを直接引用していたはずだ。それでは、最終的に大臣の手にわたった想定問答に、「極めて」の語が入っていたのか、それとも入っていなかったのか。筆者は5部5部と考える。


この手の重大案件であれば、防衛大臣の発言要領であっても、安部総理まで事前に目を通すものである。「危険な行為」と記載された発言要領に対し、韓国に激昂状態の安部総理自ら、赤鉛筆で「極めて」と補い、「極めて危険な行為」と総理修正された発言要領が岩屋大臣にわたった可能性が50%。あるいは、「極めて」という副詞は付いておらず「危険な行為」との記載であった発言要領を受け取った岩屋大臣が、興奮状態の安部総理の気持ちを忖度し、会見では、発言要領には記載のない「極めて」を補って「極めて危険な行為」とアドリブで発言した可能性が50%である。


筆者が5部5部と考える理由は、12月22日の防衛省見解では、「危険な行為」「非常に危険な行為」の2つの表現を用いているものの「極めて」の語は登場していないこと、また、12月25日の定例会見での防衛大臣の発言も「極めて」を被せたり省いたりと一貫性がなかったからである。(25日の会見用の想定問答においても、「危険な行為」の前に「極めて」が付いていたかどうか不明である)

 

おそらく22日の時点で、官邸サイドからは防衛省見解に「極めて危険な行為」と明記するよう指示があったはずであるが、防衛省は、日韓全面衝突を回避するため必死に抵抗し、苦肉の策として「非常に危険な行為」という新たなフレーズを生み出したものと思料される。ただし、政府の文書で「非常に危険な行為」という表記は、22日の防衛省見解の1回切りで、年が明けると政権幹部が一様に「極めて危険な行為」の語を用いるようになる。

 

ともあれ、6年前の日中レーダー照射事案では、一時的に安部総理が「極めて危険な行為」と主張してものの、時間の経過とともに、「危険な行為」と政府見解も抑制的になっていった。それとは対照的に、今般の日韓事案では、「危険な行為」から、「非常に危険な行為」へと途中で政府見解がエスカレートし、年が明けると、官房長官までが「極めて危険な行為」といい始め、1月21日の防衛省の最終見解の文書でも「不測の事態を招きかねない極めて危険な行為」と言い切ってしまったのである。

 

かくして、日本政府において、火器管制レーダー照射は「極めて危険な行為」との見解が確定した訳であるが、時間の経過とともに政府内でクールダウンが図られた6年前の日中事案と、むしろヒートアップしていった今般の日韓事案、どうしてこのような差が生じたのかも甚だ興味深い点である。

 

 

【本ブログ内の関連記事】

・レーダー照射問題の真相を今一度考える
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/05/235000

・軍事評論家は、日韓レーダー照射問題をどう論じたか
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/06/235000

・日韓レーダー照射問題はメディア・リテラシークリティカル・シンキング好材料である
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/08/235500

・6年前の日中レーダー照射事案との対比において、今般の日韓事案を再考する(その1)
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/10/174500

 

・6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その3)「慎重かつ詳細な分析」と「慎重かつ綿密な解析」の違いを深読みする
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/16/235500

 

6年前の日中レーダー照射事案との対比において、今般の日韓事案を再考する(その1)

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2013年日中レーダー照射事案に係る政府資料

 

昨年12月21日の防衛省の発表によって、日韓でレーダー照射問題が勃発してから、50日が経過した。この間、ネット上では、「安部政権批判派」と「反韓嫌韓派」の双方が持論を展開して議論を続けてきたが、その後も日韓で新たな火種も発生する中で、レーダー照射問題の直接的報道は激減している。

 

筆者は、政治イデオロギー論争は余り興味なく、ニュートラルな人間であると自認しているが、このところレーダー照射問題についてはツボにはまって、日韓のどちらが嘘をついているのか、といった論点をはじめ事件の真相について多大な関心を持ってウォッチしてきた。

 

さて、レーダー照射問題と言えば、今から6年前、2013年の1~2月にも、中国海軍と海上自衛隊の間で、火器管制レーダーの照射事案が発生し、世論が沸騰したことを覚えている人も多いだろう。改めて、6年前の日中レーダ照射事案について、当時の政府見解やマスコミ、評論家等による議論を振りかえり、今般の日韓レーダー照射問題と対比することにより、新たな発見があるのではないか。

 

このような認識の下に、今回は、6年前の日中レーダ照射問題について、当時の政府の公式文書や閣僚の言葉遣いを振り返り、日韓レーダー照射問題との対比において気になった点について論じてみたい。

 

最初に結論を述べておくと、
◇6年前の日中事案では、政府はレーダー照射は「危険な行為」と評価していたのに対し、今般の韓国事案では、「極めて危険な行為」と危機認識のレベルが引き上げられたようだ
◇「慎重かつ詳細な分析」と「慎重かつ綿密な解析」の言葉遣いの違いなどから、自衛隊がSTIR-180照射事実を「確証」した時点についての分析が可能である
この2点について、以下に解説する。

 

 中国海軍艦艇による火器管制レーダーの照射事案

 20160115という日付(?)の入った「中国海軍艦艇による火器管制レーダーの照射事案」なるパワポ1枚のポンチ絵が官邸のホームページに掲載されている。

https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20160115/incident.pdf

この資料の文字記載部分を全文引用しよう。

【事実関係】
○ 平成25年1月30日(水)午前10時頃、東シナ海の公海上で警戒監視中の海上自衛隊護衛艦「ゆうだち」が、中国海軍艦艇「ジャンウェイⅡ級フリゲート」から、火器管制レーダーの照射を受けた。
○ なお、1月19日(土)午後5時頃、同じく東シナ海の公海上において、警戒監視中の海上自衛隊護衛艦「おおなみ」搭載ヘリに対する、中国海軍艦艇「ジャンカイⅠ級フリゲート」からの火器管制レーダーの照射が疑われる事案が発生している。
【評価】
火器管制レーダーの照射は、基本的に、火器の使用に先立って実施する行為であり、これを相手に照射することは不測の事態を招きかねないものであり、危険な行為であると認識。
【我が国の対応】
こうした行為が短期間のうちに立て続けに行われた可能性が高いことを踏まえ、2月5日に外交ルートを通じて中国側に申入れを行うとともに、防衛省から本件について公表を実施。

 

【中国の反応】
○ 「中国側の艦載レーダーは正常な警戒と監視活動を続けていたが、火器管制レーダーは使用していない」(中国国防省HP掲載:2月8日)
【米国の反応】
○ 米国は、本事案について「このような行動は緊張を高め、事故又は誤算の危険性を増し、更には地域の平和、安定及び経済成長を台無しにしかねない」(2月5日、国務省定例会見)、「我々は同盟国・日本から説明を受け、同事案が実際に発生したと納得するに至った」(2月11日、国務省定例会見)との見解を表明。

 

この日中レーダー照射事案を巡っては、参議院議員大野元裕氏が、同年2月7日に、国会法第74条に基づき、参議院議長名義で安部総理に質問主意書を提出し、2月19日付けで閣議決定を経てが答弁書が回答されている。

 

ちなみに、質問主意書とは、国会議員が、様々な国政課題について内閣の公式見解を文書で回答を求めるもので、その答弁書は、内閣法制局長官が文言を細かくチェックし、所管大臣本人が決裁を行い閣議決定を経る非常に重みのある重要文書である。ともあれ、質問主意書への答弁書は、一般の政府発表資料とは比較にならない重みのある国家最重要文書であると思えばいい。

 

大野議員は、事案の発生時期、政府への報告時間、公表時期等にいて、次のように質問している。

日本の安全を脅かす中国海軍による火器管制レーダー照射に関する質問主意書

 

 二月五日の防衛省発表によると、一月三十日、我が国の海上自衛隊護衛艦が中国海軍のフリゲート艦から射撃の照準を合わせる火器管制レーダーを照射され、一月十九日には海上自衛隊護衛艦搭載のヘリコプターに対しても同じような火器管制レーダーが照射された疑いがあるとのことだ。日本の安全を脅かす誠に非常識な行為である。
 そこで、以下質問する。

(中略)

三 今般の中国船による火器管制レーダー照射事件に関連し、事案の発生した具体的時間、それが政府に報告された時間を明らかにされたい。一月十九日及び三十日の事案それぞれにつき、防衛省、外務省、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)及び総理官邸に知らされた時間を各々明らかにされたい。また、それ以前に同様の事件があった場合には、それについても明らかにされたい。さらに、一月三十日の事案については、当初よりレーダー照射の疑いがあったのに二月五日まで公表しなかった理由について示されたい。

 
この質問に対し、内閣はこう答弁している。

 本年一月十九日に海上自衛隊の艦艇搭載ヘリコプターが中国海軍のジャンカイⅠ級フリゲート一隻から火器管制レーダーの照射を受けた疑いのある事案(以下「一月十九日の事案」という。)の発生した時刻は、午後五時頃であり、同月三十日に海上自衛隊護衛艦が中国海軍のジャンウェイⅡ級フリゲート一隻から火器管制レーダーを照射された事案(以下「一月三十日の事案」という。)の発生した時刻は、午前十時頃である。

 

 一月十九日の事案については、防衛省運用企画局から防衛大臣、外務省アジア大洋州局、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付及び内閣総理大臣に第一報を伝えており、その日時は、それぞれ、同月十九日午後八時頃、同月二十日午前十一時頃、同月十九日午後八時頃及び同日午後八時頃であり、一月三十日の事案については、防衛省運用企画局から防衛大臣、外務省アジア大洋州局、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付及び内閣総理大臣に第一報を伝えており、その日時は、それぞれ、同年二月五日午前十一時三十分頃、同日午後零時頃、同日午後零時頃及び同日午後零時頃である。

 

 また、同年一月十九日より前には、内閣総理大臣等まで報告の上で公表の必要があると判断された今回のような事案は発生していない。

 

 一月三十日の事案について同年二月五日まで公表しなかったのは、海上自衛隊護衛艦が中国海軍艦艇から火器管制レーダーの照射を受けたと確認するまで慎重かつ詳細な分析を行っていたためである。

 

  「中国海軍艦艇による火器管制レーダーの照射事案」という資料と、質問主意書に対する答弁において、筆者が特に、注目するファクトは次の記載である。


(1)【事実関係】として次のように記載していること。
平成25年1月30日…自衛隊護衛艦「ゆうだち」が、…火器管制レーダーの照射を受けた
なお、1月19日…海上自衛隊護衛艦「おおなみ」搭載ヘリに対する、…火器管制レーダーの照射が疑われる事案が発生している。


(2)火器管制レーダーについて、次のように【評価】していること。
火器管制レーダーの照射は、基本的に、火器の使用に先立って実施する行為で
あり、これを相手に照射することは不測の事態を招きかねないものであり、危険な
行為であると認識。

 

(3)【わが国の対応】として、2月5日に中国側への申し入れと公表を行ったのは、
「こうした行為が短期間のうちに立て続けに行われた可能性が高いことを踏まえ」たものであるとしていること。


(4)1月30日に発生してから2月5日の公表まで6日間を要したことについて、「海上自衛隊護衛艦が中国海軍艦艇から火器管制レーダーの照射を受けたと確認するまで慎重かつ詳細な分析を行っていたためである。」と答弁していること。

 

(5)照射が疑われる1月19日事案については、事案発生から約3時間後に防衛大臣と総理に第一報が報告されているのに対し、1月30日事案については、防衛大臣と総理への第一報報告は事案発生から丸々6日以上経過していたこと。

 

改めて、筆者が何を問題視しているのか整理して述べよう。


2013年1月30日事案では護衛艦が「火器管制レーダーの照射を受けた」と断定しているのに対し、同年1月19日の海自ヘリに対しては「火器管制レーダーの照射が疑われる」と、わざわざ「疑われる」の語を補い断定を避けていたのである。


そして、1月30日事案について、「火器管制レーダーの照射を受けたと確認するまで慎重かつ詳細な分析」を行うのに6日間を要していたのである。


その上で、2月5日に中国側への申し入れと公表を行った理由として、「短期間のうちに立て続けに行われた可能性が高い」ことを挙げており、反対解釈をすれば、単回のレーダー照射であれば、申し入れや公表を行うような事案ではないと当時政府が認識していたことが伺える。


また、火器管制レーダーの照射について、「不測の事態を招きかねないものであり、危険な行為である」との認識を示していたことが裏付けられている。

 

そして、このような「危険な行為」であるレーダー照射について、1月19日の疑い事案については発生直後に疑いの段階で防衛大臣及び総理に報告していたのに対し、2月5日の照射を断定した事案については、何故か「慎重かつ詳細な分析」の結果が確定するまで大臣と総理に報告していなかったようだ。

 

2013年日中レーダー照射事案と今般の日韓事案での対応の対比から言えること

 では、今般の日韓レーダー照射問題の対応はどうだったか。


2018年12月20日の日韓のレーダー照射事案では、翌21日に「火器管制レーダーを照射された」と断定的に公表しており、しかも、同様の事案が短時間のうちに立て続けに行われたからではなく、単回の事案のみによって公表に踏み切っている。


そして、21日の19時頃のぶら下がり取材において、岩屋防衛大臣は、火器管制レーダーの照射について、「不測の事態を招きかねないものであり、極めて危険な行為である」旨のコメントをしていたらしい。


6年前の日中事案と今般の日韓事案の対比すると、以下のような素朴な疑問が生じてくる。

・「照射を受けた/照射された」と断定する場合と、「照射が疑われる」と判断する場合とではその判断の根拠となる証拠の水準等において何が異なるのか?明確な判断基準はあるのか?

 

・2013年1月30日の事案では、「慎重かつ詳細な分析」に6日間を要していたのに、2018年12月20日の事案では翌日には照射の事実を断定し公表に踏み切っているが、この6年間の間に、自衛隊におけるレーダー解析技術が根本的・画期的に向上したのか?それとも、もしかして、12月21日の時点では、STIR-180のレーダー照射の事実は確定的に解析されていなかったにもかかわらず、見切りで断定的に公表してしまったのか?

 

・仮想敵国である中国からのレーダー照射について短期間に複数回の事案発生を受けて申し入れと公表を行っているのに対し、友好国である韓国との事案については、単回のみの事案によって公表等が行われたが、この対応の差異は何に由来するのか。この6年間の間に、日本海海域において、レーダー照射に対する脅威度が著しく高まったのか?

 

・中国からの複数回のレーダー照射が「危険な行為」であったのに対し、韓国からの単回だけのレーダー照射について「極めて危険な行為」と、「極めて」という強調表現が追記されているのは、前者よりも後者の事案のほうが危機・脅威度がよほど高かったからなのか?

 

このような筆者の抱く素朴な疑問に対し、「些細な表現ぶりの問題であって、言葉のアヤに対して重箱の隅をつつくような突っ込みは不要ではないか」と思われるかも知れない。だが、国の作成する行政文書は、一字一句、言葉の意味合いを精査し、緻密に用語を選んで記載され、幾人もの内部決裁、文言チェックを経て公表されるものである。従って、微妙な文言の差異に注目することにより、行政側の意図や真意を推量することがしばしば可能となるのだ。


次回続編では、
・「危険な行為」と「極めて危険な行為」の表記の差異、
・「慎重かつ詳細な分析」と「慎重かつ綿密な解析」の表記の差異
について考察を進める。

  

 

 

【本ブログ内の関連記事】

・レーダー照射問題の真相を今一度考える
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/05/235000

・軍事評論家は、日韓レーダー照射問題をどう論じたか
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/06/235000

・日韓レーダー照射問題はメディア・リテラシークリティカル・シンキング好材料である
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/08/235500

 

・6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その2)「危険な行為」と「極めて危険な行為」の差異
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/12/233000

・6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その3)「慎重かつ詳細な分析」と「慎重かつ綿密な解析」の違いを深読みする
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/16/235500

 

日韓レーダー照射問題はメディア・リテラシー、クリティカル・シンキングの好材料である

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自衛隊が公表した「飛行経路」


 


本ブログにおいて、一昨日、昨日と日韓レーダー照射問題について取り上げてきた。一昨日は、韓国駆逐艦から自衛隊哨戒機に対しSTIR-180からレーダー波が照射されたのは真か偽か、について筆者の見解を述べた。昨日は本件について、日本の軍事評論家10名が、どのような見解を示してきたのか振り返ってみた。

 

このレーダー照射問題については、日韓両国間で、主張が食い違う点が多く、両国のメディアや評論家、ブロガーなどによって、様々な議論が行われてきた。

いま一度、主な論点を挙げてみよう。

 

(1)そもそも、韓国駆逐艦から自衛隊哨戒機に対しSTIR-180からレーダー波が照射されたのか、否か。


(2)STIR-180レーダーが照射されていたのが事実として、その事実を自衛隊が確証したのはいつの時点だったのか。また、韓国軍において、誰がどのような目的でレーダー照射を指示したのか。
 もしSTIR-180レーダーが実際には照射されていなかったのであれば、自衛隊において、判断ミスが生じた原因は何か。また、誰の判断・責任で照射されたと虚偽の報告を行ったのか。


(3)問題発生場所はどこか?能登半島付近なのか、韓国名の独島(日本名の竹島)付近なのか、どちらからも離れた海域なのか。


(4)問題発生時点の気象条件(波の状況)は、穏やかだったのか、荒れていたのか。


(5)韓国が対応していた遭難船は、北朝鮮の漁船だったのか、それとも工作船だったのか。韓国は遭難船を救助していたのか、それとも、燃料を供給していたのか。


(6)自衛隊は、どのようにして北朝鮮遭難船と韓国海警備艇駆逐艦の存在を探知したのか。自衛隊が、韓国軍の無線を傍受していたのか、それとも、通常の哨戒活動中に偶然発見したのか。


(7)自衛隊哨戒機は、韓国駆逐艦に何メートルの距離まで接近していたのか。また、これは客観的にみて、駆逐艦の乗員に脅威を与える距離であったのか。


(8)自衛隊哨戒機内で「FC系レーダー波を探知」することは、客観的にみて、乗員にどの程度の脅威を与えるものなのか。ミサイル攻撃を受ける直前であると差し迫った生命の危機を感じるレベルなのか、それとも、大した脅威は感じていなかったのか。


(9)自衛隊哨戒機からの航空緊急無線呼び出しを韓国駆逐艦が受信しなかったのは、無線障害あったのか、それとも受信状況は良好で、韓国側が故意に無線呼び出しを無視したのか。


(10)レーダー照射問題を政権浮揚のために利用したのは、安部政権か、文政権なのか、それとも双方なのか。

 

軍事組織や国家権力中枢の機密主義・隠蔽体質により、これらのファクトが完全に解明されることは期待できないが、日韓双方から公式・非公式に提示された資料や発言、メディアや評論家等による議論を、先入観を持たず、健全な懐疑心で批判的に読解することにより、どちらの主張が、より論理的で、より説得力があるかを考察することが可能である。

 

この作業は、原告、被告の双方から示される極論や巧妙なレトリック、詭弁交じりの対立的な主張を、自由心証主義により事実認定していく裁判官の判断プロセスにも似たものとも言えるだろう。

 

フェイクニュースやマインドコントロール手法を駆使した商業広告や宗教勧誘、政治的プロパガンダに溢れたネット社会において、個々人は我が身を守るために、情報の真偽を見抜く力を養うこと、すなわち、メディア(情報)リテラシーを高めることが必須である。

 

筆者は、今回の日韓レーダー照射問題は、メディア(情報)リテラシークリティカル・シンキングの素養を高める好材料であると思っている。中立的な意見によりも、両極端の意見・記事を読み比べることによって、より批判的な思考力が研ぎ澄まされることであろう。

 

両極端の意見・記事とは、ここでは、片や「レーダー照射は行われていなかった、嘘つきは日本のほうだ」との主張であり、他方で「反韓嫌韓のスタンスが鮮明」な主張、の両者を指すことは自明であろう。以下において、メディア(情報)リテラシークリティカル・シンキングの実践力を磨くための生の教材として、それぞれの立場の典型例である6名(のブログ等)をプロ(職業執筆家)、アマ(個人ブロガー)を区別することなく取り上げて紹介する。

 

各自、裁判官になった気分で、両極端な意見・記事群を読み比べ、様々な論点について、どちらの主張がより合理的で説得力があるのか、どちらが、フェイク、ガセネタであるのか、ジャッジしてみたら面白いと思う。

 

レーダー照射は行われていなかった、嘘つきは日本のほうだと主張する記事群

「レーダー照射は行われていなかったのではないか、仮に照射がされていたとしても、大した問題ではない。」との立場の主張を繰り返し記事にしてきたブログ等は、筆者の調べた限り次の6つ存在する。


【1】誰かの妄想・はてなブログ http://scopedog.hatenablog.com/

ざっと過去の記事を眺めたところ、ネトウヨ歴史修正主義批判、辺野古基地問題など安部政権批判の内容が多いブログだ。

レーダー照射問題については、2018年12月30日に「広開土大王艦事件について日本側の公開映像に関する件」http://scopedog.hatenablog.com/entry/2018/12/30/070000

という題の記事を掲載して以降、30件以上の関連記事を掲載。

 

【2】スパイク通信員の軍事評論 http://spikemilrev.com/index.shtml

昨日のブログ記事でも紹介したが、軍事評論家の田中昭成氏が、2006年から軍事関連情報を連載しているブログ。

レーダー照射問題については、2018年12月29日に「レーダー照射事件は日韓共に情報開示不足」http://spikemilrev.com/news/2018/12/29-1.htmlという題の記事を掲載して以降、1月25日までに、9件の関連記事を掲載。

 

【3】コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」

https://hbol.jp/hbo_series_group_name/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%A9%E3%83%89%E5%8D%9A%E5%A3%AB%E3%81%AE%E7%A7%81%E3%81%AF%E3%81%93%E3%81%AE%E5%88%86%E9%87%8E%E3%81%AF%E5%B0%82%E9%96%80%E5%A4%96%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8C

コロラド博士を自称する牧田寛氏が、ハーバー・ビジネス・オンラインという扶桑社が運営するオンライン情報サイトに記事を連載。
(扶桑社と言えば、右派・反韓嫌韓の著作を多数刊行し、先日、女子大生何ちゃらランキングで物議を醸した雑誌「SPA!」を発行するフジ産経グループの出版社であるが、ハーバー・ビジネス・オンラインには何故か左派の記事も少なからず掲載されている。)

レーダー照射問題については、2019年1月8日に「日韓「レーダー照射問題」、何が起きていたのか、改めて検証する」https://hbol.jp/182872/4という題の記事を掲載して以降、2月8日までに、8件の関連記事を掲載。

なお、反韓嫌韓の人たちは、牧田氏の主張に怒り心頭のようで、牧田寛氏によるレーダー照射事件の記事への反論 - pollux6’s blogというブログが立ち上がっているようだ。

 

【4】ブースカちゃん(@booskanoriri)の「へろへろblog」https://booskanoriri.com/

ITやらカメラ、動物、飛行機などなど多彩な趣味?を綴っており、政治や軍事面であまり「色」はないブログのようだ。

レーダー照射問題については、2018年12月29日に「韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(1)」https://booskanoriri.com/archives/3464という題の記事をアップして以降、1月20日までに6件の関連記事を掲載。

 

【5】Goodbye! よらしむべし、知らしむべからず http://c3plamo.ddns.net/blog/

このブログ主は、反自民党、反信濃町創価学会)、アンチ大マスコミ・テレビ各局を標榜している。

 レーダー照射問題については、2019年1月1日に「早とちりだったか? ~火器管制レーダーとの錯誤か」http://c3plamo.ddns.net/blog/archives/2019/01/c_1.htmlと題する記事を掲載して以降、1月30日までに13件の関連記事を掲載。
このブログ主は「安部政権の言うこと何ぞ信用できる訳がない」という立場で、安部政権を茶化した表現も目立つ。

 

【6】日中朝不戦ブログ http://blog.livedoor.jp/kobatetu01-memo/

林哲夫(コバテツ)氏が運営する「日中不戦」、北朝鮮問題を考えるブログ。

レーダー照射問題については、2018年12月27日に「韓国によるレーダー照射(問題なし?)」と題する記事をアップして以降、2月7日までに26本の記事を掲載。

 

反韓嫌韓のスタンスが鮮明な記事群

韓国と北朝鮮は内通している、レーダー照射を仕組んできた韓国に対し経済制裁や国交断絶も視野に入れ毅然とした対抗措置を講じるべき、といった主張がネット上で溢れている。

このようなスタンスの論者の中で、レーダー照射問題について多数の記事をアップしているブログ等を6つ紹介する。

 

【1】キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】) https://ameblo.jp/calorstars/

自衛隊の処遇改善を求める請願活動などを実施する「自衛官守る会」という市民団体の代表を努める国防ジャーナリスト、小笠原理恵氏が運用しているブログ。

2018年12月22日以降、レーダー照射問題に関する関連記事を15本ほど掲載している。


【2】鈴木衛士氏のブログ記事 http://agora-web.jp/archives/author/eijisuzuki

「元航空自衛隊情報幹部」の肩書きの鈴木氏が、「アゴラ」にブログ記事を連載している。
2018年12月24日以降、レーダー照射問題に関する関連記事を4本ほど掲載している。


【3】木走正水氏のブログ記事 https://blogos.com/blogger/kibashiri/article/

ブロガーの木走氏が、BLOGOSに政治経済、社会問題についての記事を連載。
2018年12月27日以降、レーダー照射問題に関する関連記事を4本ほど掲載している。

なお、厳密に言えば、木走氏はレーダー照射問題について制裁措置を主張しているわけではない。韓国だけが「子供のけんか」を止められないかわいそうな国であるとして、日本の「大人の対応」を支持している。

 

【4】Obiekt よく分かる軍事ニュース解説 https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/

匿名の軍事ブロガー「JSF」氏による軍事ニュースの解説サイトで、2013年1月から計250件ほどの解説記事が掲載されている。

レーダー照射問題については、2018年12月21日に「韓国海軍の駆逐艦海上自衛隊の哨戒機に向けて火器管制レーダーを照射」https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20181221-00108571/と題する記事をアップして以降、1月29日までに7件の関連記事を掲載。

このブログの関連記事は、軍事技術面からの解説が中心であり、韓国批判の色合いは強くない。


【5】東アジア黙示録 https://dogma.at.webry.info/

反日ファシズムを迎撃するコラム」と謳われているブログ。

レーダー照射問題に関連して、
日本海に“文在寅ライン”出現…南鮮海軍の愚かな野望(2018年12月22日)
・照射事件の封印された始末書…南北が跋扈する“冷戦の海”(2019年1月6日)
・南北ウラ合意の極秘支援作戦…文在寅に叩き付けた絶縁状(1月22日)
・南鮮軍と組んだ反日メディア…上海沖の“未確認飛行物体”(1月28日)
の4本の原稿が掲載されている。


【6】BBの覚醒記録 https://blog.goo.ne.jp/bb-danwa

売国奴」「皇室問題」「日韓問題」などに関する多数の記事を書き込んでいるブログ。

レーダー照射問題に関連する記事は30本程度掲載されている。韓国に対して弱腰の岩屋防衛相を更迭すべき、と主張している。

 

 

 


【本ブログ内の関連記事】

・レーダー照射問題の真相を今一度考える
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/05/235000

・軍事評論家は、日韓レーダー照射問題をどう論じたか
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/06/235000

 

・6年前の日中レーダー照射事案との対比において、今般の日韓事案を再考する(その1)
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/10/174500

・6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その2)「危険な行為」と「極めて危険な行為」の差異
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/12/233000

・6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その3)「慎重かつ詳細な分析」と「慎重かつ綿密な解析」の違いを深読みする
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/16/235500

軍事評論家は、日韓レーダー照射問題をどう論じたか

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1月4日に韓国国防省が公開した映像


  

日韓レーダー照射問題について、筆者は、昨日の記事で次のように記載した。

韓国駆逐艦からSTIR-180レーダー照射されていたとしても、「直ちに対空ミサイル攻撃が予想されるような緊迫した状態であった訳ではなく、外交問題化させることなく、両国の実務レベルで協議して一件落着すれば済む事案であった」というのが、多くの軍事評論家が示す見解だ。


「…というのが、多くの軍事評論家が示す見解だ」とする筆者の主張については、異論・反論が予想される。否、「多くの軍事評論家は、『韓国軍は今や日本を敵視しており、レーダー照射を受けた哨戒機の乗員は直ちに対空ミサイル攻撃が予想される極度に緊迫した状況に晒されていたはずだ。日本は韓国に対し断固とした措置をとるべきだ』と主張しているではないか」、といった異論・反論が。

 

確かに、韓国を目の敵にして、韓国に対して強硬姿勢で臨むべきだと主張する軍事評論家が存在することは否定しない。しかし、このような主張を行う軍事評論家は決して多数派ではないと考える。むしろ、今回のレーダー照射問題について、冷静に対処すべきと主張する軍事評論家のほうが多いと筆者は理解している。

 

「多い」というのは曖昧で主観的な表現ではあるが、今回は、筆者がこのように考える根拠を示すこととする。

 

筆者は、思想信条や専門分野を問わず、一般人よりも深い軍事知識を有し、その知識を執筆や講演活動等で披露することにより一定の収入を得ている人たちを「軍事評論家」と定義づけている。

 

いわゆる軍事評論家の中には、「軍事アナリスト」「軍事ジャーナリスト」「軍事ライター」などと自称していたり、敢えて、軍事評論家を標榜していない人たちもいるが、本稿ではこのような人たちも包含して「軍事評論家」という用語を使用している。

 

軍事評論家の多様性

一口に、「軍事評論家」といっても色んな人たちが存在する。専ら軍事問題についての著書を慣行したり、雑誌に寄稿したり、有料メルマガを発行したり、テレビに出演したり、講演活動を行って生業を立てている専業者も存在する。一方で、本職は別に存在し趣味の一環として軍事情報に精通した軍事オタク、軍事マニアが軍事評論家を自称してブログを綴っていることもある。

 

また、専門分野として、航空機や艦船、兵器や装備などの技術面の解説を得意とする評論家がいる一方で、軍事作戦・戦略・戦術を語る人、軍制や軍隊の組織マネジメントを主な切り口としている人、国際政治や外交、安全保障論の枠組みから軍隊を論じる人など、様々だ。

 

また、軍事評論を読む際には、論者の思想信条や「政治との距離感」に留意が必要である。軍事評論家の中には、「共産主義打倒。ソ連にミサイルをぶっ放してやれ」的な好戦的な言葉遣いの人がいる一方で、反戦平和を信条としてあらゆる軍事組織を悪とみなすような人もいるようだ。

 

政府や防衛省の審議会等に委員として名を連ねている軍事評論家や、自衛隊の応援団を自認する物書きであれば、防衛省の立場を代弁するスポークスマンとして振る舞いがちである。

 

軍事評論家のバックグランドとして、自衛隊出身者が少なからず存在し、彼らは、自衛隊の公式見解に同調し、自衛隊を「援護射撃」することが多い。もちろん、自衛隊出身者であっても、自衛隊に批判的な評論家もいる。逆に、自衛隊が警戒するぐらい攻撃的な極右言動を繰り返す評論家も存在する。

 

このように軍事評論家といっても、専門分野や思想信条等は多様性に富んでいるが、ともあれ、軍事評論家が論じる内容は、政治的傾向・イデオロギーが絡むことから、他の分野の評論家と比べて、非難・中傷に晒されやすいという特徴がある。自らの思想信条と合致しない評論家に対して、あいつは「反日だ」「国賊だ」「デマゴーグだ」「政府の番犬だ」「御用評論家だ」「戦争屋だ」といったレッテルが貼られるし、さらには、「評論家と呼ぶには値しない馬鹿だ」「頭の悪い軍オタだ」とか、「〇〇国のスパイだ」といった人格批判にも日常的に晒されている。

 

筆者自身は、自らの思想信条と一致するしないに係らず、論理的で首尾一貫した主張を行う評論家の主張には耳を傾け、論理性・首尾一貫性を欠いた単なる扇情的な発言を繰り返す者は「評論家に値しない」と思っている。

 

10人の軍事評論家の見解

 前置きが長くなってしまったが、本題に入ろう。2018年12月21日に「レーダー照射問題」が勃発して以降、筆者は、軍事評論家が、この問題をどのように論じるのか、興味深くウォッチしてきた。

 

筆者が定義する軍事評論家(思想信条や専門分野を問わず、一般人よりも深い軍事知識を有し、その知識を執筆や講演活動等で披露することにより一定の収入を得ている人たち)の中で、これまでに、無料で読めるウェブサイト等においてレーダー照射問題についての見解を執筆してきた者は10名いる。

 

アイウエオ順に示すと、次の10名である。

井上孝司、小笠原理恵、小川和久、黒井文太郎、関賢太郎、田岡俊次、高橋浩祐、田中昭成、西村金一、文谷数重


この10名を同列に並べることに異論があることは百も承知だ。思想信条など対極的な人たちもリストアップされており、「こいつは軍事評論家なんかではないぞ!」と異議申し立ての対象となる者もいるだろう。この10名のうちどなたか本稿を目にすることがあったら、「え、奴と自分が同列? まさか!」と憤慨するか、苦笑する可能性が高いと思う。

 

ちなみに、この10名以外にも、著名な軍事評論家は存在すると思うが、「現時点でレーダー照射問題に関する見解を執筆していない」「有料メルマガ等で見解を示しているが、一般人が容易に目にすることができない」「テレビ等の媒体で発言しているものの、見解を文章化していない」評論家は除外している。もし、この10名以外の軍事評論家によるレーダー照射問題についての論考があれば教えていただきたい。


(1)井上孝司

鉄道・航空・軍事(順不同)を主領域とする物書き。ウェブ上では、以下の2つの記事を読むことができる。

 

海上自衛隊のレーダー照射事件とレーダー電波の受信・解析
マイナビニュースに連載中の「軍事とIT 第277回)

https://news.mynavi.jp/article/military_it-277/

Opinion : 射撃管制レーダー照射事案に関する徒然 (2019/1/14)

http://www.kojii.net/opinion/col190114.html


韓国駆逐艦から射撃管制レーダーが照射されたか否かの事実関係については、両国政府、ネット世論で水掛け論が続いているとして深入りせず、レーダー電波について技術的側面について解説している。

一方で、日本では「野党」が大人しく、平素は「韓国寄り」と叩かれる場面があった新聞・TV までが韓国を擁護しなくなっていると現状分析し、「世間の空気を読んだ結果」なのであれば、危惧を覚えると所感を述べている。


(2)小笠原理恵

自衛官守る会」という市民団体の代表で、必ずしも評論家には該当しないかもしれないが、商業誌(「正論」や「月刊WILL」など)に寄稿しているようなので、本稿では軍事評論家に含め紹介する。

 「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」というブログを運営し、2018年12月22日以降、レーダー照射問題に関する関連記事を15本ほど掲載している。

https://ameblo.jp/calorstars/entry-12430777069.html


(3)小川和久

マスコミでの露出も比較的多い、著名な軍事評論家。低レベルの「軍事評論家」と一緒にされたくないという理由で「軍事評論家」という肩書を嫌い、「軍事アナリスト」を名乗っている。

小川氏は有料メルマガを発行しており、その中でレーダー照射問題に関する記事を書いているようであるが、そのうち次の3つの記事が、MAG2 NEWSという情報サイトで無料で読むことができる。


レーダー照射で軍事アナリストが期待する韓国のファクトチェック(2019.02.05)

https://www.mag2.com/p/news/384912

レーダー照射事件の教訓「フェアに振る舞うはず」と思い込まぬ事(2019.01.28)

https://www.mag2.com/p/news/384125

軍事アナリストが断言。レーダー照射事件は「韓国の全面降伏」(2019.01.14)

https://www.mag2.com/p/news/382468


韓国駆逐艦から射撃管制レーダーが照射されたか否かの事実関係については、事実であるとの立場に立ち、当初からレーダー照射を頑に否定し続ける韓国を批判している。が、2月5日の記事の文末の次の一節の記載が意味深である。

軍事問題のチェックは容易ではありません。なにしろ日本でも、外務・防衛官僚や自衛隊のエリートでも知らなかったり、間違いを信じ込んでいたりする場合があるくらいです。そこを情報源とするメディアは、情報源が間違っているだけで、「親亀がこけたら小亀もこける」の状態に陥り、誤報の連鎖が「事実」として歴史の一角に居座ることになるのです。

 小川氏は、政権や自衛隊との距離が近いので、基本的には自衛隊の見解を前提とした論考を発表しているものの、もしかすれば、内心では、日本側が虚偽の主張をしている可能性もあると疑っているのではないか、と思えてくる。


(4)黒井文太郎

『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経た軍事ジャーナリスト。

 2018年2月25日放送のTOKYO FMの番組「クロノス」に出演し、レーダー照射問題について、日韓両政府間で意見が食い違っていることについて、「(理由が)不明だ」「どちらかが嘘をついているのか、ミスをしたのか。あるいは、何か機械的なトラブルがあったのか……両国でデータを出してもらわないと外からはわからない」と指摘。

「(今回のレーダー照射問題は)もともとよほど悪質でなければ大きな問題にはならなかったと思う」「こうしたことは2度とあってはいけないので、何が原因かをきちんと検証しなくてはならない」「当時のデータで簡単にわかること。両国ともきちんとやれば大きな問題にはならなかったと思うが、ここ数日のギクシャクしたやり取りを見ていると心配です」と述べていた。

https://tfm-plus.gsj.mobi/news/RQlTjThwC1.html?showContents=detail

 

一方、1月7日には、次のようにツイートしている。

「日韓レーダー問題では、どちら側に非があるかはもう韓国側に決定してるので、自分が知りたいのは、韓国側内部に何が起きてるのか?ということですね。
安全保障というより韓国政治の分野なので、そちらの専門家の分析を知りたい。(なんか根拠情報のない憶測が今のところ多い気が)」

 
(5)関賢太郎

情報サイト「乗りものニュース」に、記事を連載中の航空軍事評論家。
レーダー照射問題については、12月22日以降に5本の記事を載せている。
関氏は、自衛隊との関係が良好のようで、12月上旬には、P-1哨戒機を擁する厚木基地第3航空隊に対する取材なども行っている。

https://trafficnews.jp/post/writer/関%20賢太郎(航空軍事評論家)


韓国駆逐艦から射撃管制レーダーが照射されたか否かの事実関係については、事実であるとの立場に立ちつつも、韓国側の意図しない偶発的事故であるとの見解を示す。
その上で、韓国が海自P-1哨戒機は「脅威」であったとして謝罪要求を続けるならば、韓国は対外的な信用を失うことになるだろうと主張する。


(6)田岡俊次

元・朝日新聞記者という経歴もあって、ネトウヨからは「反日」「左翼」呼ばわりされている軍事ジャーナリスト。

 韓国のレーダー照射は「危険行為」に該当せず…根深い韓国軍の反日姿勢、日本を仮想敵国化(2019.01.08)

https://biz-journal.jp/2019/01/post_26184.html

 韓国駆逐艦から射撃管制レーダーが照射されたか否かの事実関係については、事実であるとの立場に立ちつつも、「危険行為」に該当しないとの立場を表明。さらに、韓国の国内事情について忖度し、日本は大人の対応をすべきと説く。


(7)高橋浩祐

英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。

 海外メディアは冷ややかな日韓レーダー照射問題(2019.02.02)

https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019020100003.html?page=1

 レーダー照射問題について、海外メディアは「ああ、また日韓がいつものように揉めている」と冷ややかで、ほとんど関心を示していないとした上で、日本が「政治マター」化していると批判。中朝を利するだけであり、原宿やソウルの明洞(ミヨンドン)の若者たちを見習って頭を冷やせ、と主張する。


(8)田中昭成

「平和を守るための戦争概論」などの著者。「スパイク通信員の軍事評論」http://spikemilrev.com/index.shtmlというウェブサイトに、軍事関連情報を連載している。

 レーダー照射問題については、2018年12月29日に「レーダー照射事件は日韓共に情報開示不足」http://spikemilrev.com/news/2018/12/29-1.htmlと題する記事を掲載して以降、1月25日までに、9件の関連記事を掲載。

 射撃管制レーダーが照射されたか否かの事実関係については、否の可能性を示唆する主張を展開している。


(9)西村金一

昨日の本ブログ記事でも取り上げたが、自衛隊出身で、防衛省情報分析官、幹部学校戦略教官などを歴任。

 今回のレーダー照射問題については、韓国の警備救難艦が救助していた遭難船は漁船ではなく北朝鮮の特殊工作船であり、その工作船に韓国が燃料を提供していた事実を隠蔽したいがためにレーダー照射が行われたとの主張をメディア等で展開している。

 

そんな西村氏が、「レーダー波照射音の公開は、韓国に弁明の機会を与えただけだ」https://blogos.com/article/352685/という記事において、防衛省が公開した音声データはSTIR-180レーダー照射がなされた決定的証拠にはならない、と、むしろ韓国政府が喜ぶような主張をしている。西村氏によれば、パルス信号の詳細なデータを開示しなければ、レーダー照射がなされた絶対的証拠にならないらしい。


(10)文谷数重

航空自衛隊出身の軍事専門誌ライター。

 韓国レーダ照射への抗議は誤り(2018.12.26)

https://japan-indepth.jp/?p=43360

 韓国駆逐艦から射撃管制レーダーが照射されたか否かの事実関係については、事実であるとの立場に立ちつつも、日本政府は抗議するべきではなかった、騒ぐほどの必要性はなかった、と主張。
なお、この記事については、次のような批判がなされているようだ。

https://goyang88.com/archives/3411

 

まとめ

 今回は、レーダー照射問題について、10人の軍事評論家の見解を振り返ってみた。

10人の見解をスーパー超訳すると、次の5群に大別される。

(筆者の事実誤認があるかも知れないので、異論等があれば、コメントいただければ幸甚である)

 

①レーダー照射は韓国の陰謀。韓国を征伐すべし!
  小笠原理恵、西村金一
②レーダー照射は韓国側の失態。韓国はきちんとオトシマエをつけよ!
  小川和久
③レーダー照射は韓国側の過失。でも、大した問題ではないよ。
  黒井文太郎、関賢太郎、田岡俊次、高橋浩祐、文谷数重
④照射されたか否かの事実関係はともかく、日本の世論は危うい
  井上孝司
自衛隊の誤認であって、実はレーダー照射されていないのではないか
  田中昭成


ネトウヨ層からすれば、④や⑤の論者のみならず、③ですら「パヨク」呼ばわりの対象であり、片や、親韓左派グループからすれば、②ですら「安倍政権の走狗」呼ばわりの対象になっちゃっているようだけど、左右分断図式で短絡的に捉える思考は健全ではありませんね。

 

 

 

【本ブログにおける関連記事】

・レーダー照射問題の真相を今一度考える
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/05/235000

・日韓レーダー照射問題は、メディア・リテラシークリティカル・シンキング好材料である
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/08/235500

 

・6年前の日中レーダー照射事案との対比において、今般の日韓事案を再考する(その1)
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/10/174500

・6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その2)「危険な行為」と「極めて危険な行為」の差異
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/12/233000

・6年前の日中レーダー照射事件との対比において、今般の日韓事案を再考する(その3)「慎重かつ詳細な分析」と「慎重かつ綿密な解析」の違いを深読みする
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/16/235500

レーダー照射問題の真相を今一度考える

 

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2018年12月28日に自衛隊が公表した映像

 

 

2018年12月21日に、日韓でいわゆる「レーダー照射問題」が勃発してから45日が経過した。


徴用工問題や観艦式における旭日旗禁止事案などで日韓で険悪なムードが続く中、今回のレーダー照射問題によって日韓関係は決定的に悪化し、特に日本の一般世論では、韓国を「友好国」ではなく「敵国」視する論調が広まっている。

 

これまでの経緯を簡単に振り返ってみよう。

 

レーダー照射問題の経緯

 

まず、日本の防衛省が、12月21日に、「海上自衛隊厚木基地(神奈川県)所属のP1哨戒機が20日午後3時ごろ、石川県・能登半島沖の排他的経済水域内の上空で韓国海軍の駆逐艦から火器管制レーダーの照射を受けた」と発表した。岩屋毅防衛相は「不測の事態を招きかねず、極めて危険な行為である」旨を述べ、韓国に強く抗議したことを明らかにした。

 

12月27日に、日韓の実務者協議が開催され、韓国側が照射を否定した。翌28日に防衛省は、P1哨戒機が撮影した約13分の映像を公開した。

 

年が明け1月2日に、韓国国防省は、「友好国の艦艇が公海上で遭難漁船を救助している人道主義的状況で、日本の哨戒機が低空威嚇飛行をした行為そのものが非常に危険な行為」であったとし、日本側に謝罪を求める声明を発表した。1月4日には、韓国側の正当性を主張する映像を公開した。

 

1月21日には日本側防衛省が「本件事案に関する協議を韓国側と続けていくことはもはや困難」との声明を出し、「韓国レーダー照射事案に関する最終見解」と火器管制用レーダー探知音・P-1の当日の飛行ルートなどを公開した。


1月22日には韓国国防部が「日本が両国関係と韓米日協力、さらには国際社会の和合に何の役にも立たない不適切な世論戦をこれ以上しないことを今一度厳重に求める」との抗議文を発表した。

 

嘘つきは日韓のどっちだ?


以上が一連の経緯である。日韓両国政府は、韓国の駆逐艦「広開土大王」から自衛隊P1哨戒機に向けて火器管制レーダー(STIR-180)からレーダー波が照射されたか否か、という事実関係を巡って真っ向から対立している。

 

STIR-180からレーダー波が照射されたか否の真実は一つしかなく、日韓両政府のうち、片方が真実を語り、他方は虚偽の発言をしていることになる。では、果たしてどちらの主張が真なのであろうか。

 

筆者の基本認識は、国家・政府なるものは嘘つきの塊で、とりわけ軍事組織は、嘘つきの極致で、秘密保持を錦の御旗に都合の悪いデータを恣意的に隠蔽したり、平然と改竄をやってのける連中であると考えている。自国も他国も嘘つきという点で大差なく、自国政府の見解を無条件に信用し、相手国政府の主張を無条件に否定する態度は、愚かで危なっかしいと思っている。

 

レーダー照射問題についても、日韓両政府とも、内政事情などから嘘をつく動機があり、日本政府が嘘をコイでいる可能性もあるし、逆に、韓国政府が嘘をコイでいる可能性もあると考えている。

 

筆者は、ミリタリーやレーダーについて専門的知識を持っている訳ではないが、STIR-180からレーダー波が照射されたか否かの真相を知りたく、日韓両政府の見解、評論家などの関連記事に幅広く目を通し、日韓両政府のどちらの見解がより論理的・合理的で、より説得力のある主張を展開しているのかを自分なりに批判的に思考してきた。

 

で、日韓両政府のどちらが真でどちらが嘘か、自分なりに色々考えてきた結論を開陳すると、絶対的な証拠が欠如しており、結局のところ「わからない」としか言いようがない。

 

韓国政府の主張に立脚した事件像


「STIR-180からレーダー波は照射していない」とする韓国政府の主張にも一定の説得力があり、この立場に立脚すれば、この間の経緯は次のように映る。

 


接近してきた自衛隊の哨戒機に対し、駆逐艦「広開土大王」からは、レーダー波自体は照射していないが光学カメラを稼働させるためSTIR-180レーダーを指向させた。

 

哨戒機内ではレーダー波捕捉を示唆するアラームが鳴ったが、この時点で、NW-08、SPS-95kなどの別のタイプのレーダーを稼働しており、また、警備救難艦からもSTIR-180と同様の周波数帯のドップラー・レーダーが稼働していた。

 

STIR-180からレーダー波自体は照射されていないものの、レーダーが哨戒機の方向を向いていたことから、哨戒機の乗務員は、警報音を、STIR-180からのレーダー波であると「早とちり」した。

 

自衛隊内部では、本件について政治問題化させることなく、慎重な解析と対応が必要と考えていたところ、官邸からの命令により、翌21日に、攻撃直前の行為を受けたと韓国に対する糾弾を開始した。

 

韓国においては、哨戒機が、他のレーダー波を誤認した可能性などが指摘されていたが、日本政府は明言を避け、日本国内では一部の右派政治家や嫌韓評論家が激しい韓国バッシングを展開し、冷静な議論が不可能な状況に陥った。

 

1月21日に日本側が、もうこれ以上議論しないと捨て台詞を吐いて最終見解を公表し、この中で、STIR-180からのレーダー波が照射されていたと明言した。しかし、同時に公表したレーダー探知音と称する音声データは、単なる機械音に過ぎず、STIR-180からのレーダー波であることを裏付けるものではない。

 


断っておくが、これは、あくまでも、韓国側の主張を前提としたときに描写される事件像であり、筆者自身の見解ではない。一つのものの見方であると思うが、韓国側の主張には、日本側の主張を前提としたときに、いくつか難点がある。

 

韓国側においても、自衛隊哨戒機が、何らかのレーダー波を探知したであろうことは全否定しないが、駆逐艦のNW-08、SPS-95kなどの別のレーダー、あるいは警備救難艦からのレーダー波を、自衛隊がSTIR-180のレーダー波と誤認した、とするのが韓国側の立場である。

 

やっぱりSTIR-180レーダー波は照射されていたのか?

 

確かに、これらのレーダーの中には、STIR-180と同じ周波数帯のものも存在しているようであるが、いずれも回転しながらレーダー波を出す捜索レーダーであり、特定の目標に向け一定期間継続的に照射するSTIR-180のようなレーダー波とは、明確に特性が異なるものであるらしい。

 

また、1月21日に防衛省が公開した音声データについて、韓国側は単なる機械音に過ぎないと一蹴しているものの、自衛隊が公表した音声データを音声編集ソフトによりスペクトログラム解析を行い、STIR-180による信号に合致すると指摘するブログ記事が存在する。

 

スペクトログラム解析の結果について評価する能力を筆者は持ち合わせていないが、解析結果を前提とすれば、STIR-180レーダー波が照射されたことは紛れもない事実と言えるかも知れない。

 

先に書いたとおり、軍事組織は嘘つきの極致であり、平然と隠蔽や捏造をやってのける連中である。古今東西を問わず、歴史上、かかる事例は枚挙に暇無い。故意か過失かはともかく、実際にはSTIR-180レーダーを照射していたにも関わらず、韓国側が意地で否定し続けている蓋然性が高いと考えられる。

 

しかしながら、極めて陰謀論的発想であるが、安倍総理の意向を忖度して、あるいは組織防衛のため、実際にはSTIR-180レーダーは照射されていないにも関わらず、STIR-180による信号に合致するよう自衛隊が組織的に音声データを偽装・改竄した可能性も完全には否定できない。

 

何しろ、日本は、不都合な事実が発覚すれば、「鉛筆なめなめ」「お化粧」と称して、悪びれることなく平然と行政組織が公文書を書き換え情報操作をするのがお家芸の得意技とするお国柄である。

 

そんなこんなでSTIR-180レーダー照射の有無についての真相は闇の中。両国で協議を続けたところで、あるいはレーダー技術等の専門家が高度専門的な討議を行ったところで、非難の応酬に終わってしまい、真相が解明されることはないだろう。

 

ただし、韓国駆逐艦から自衛隊哨戒機に向けてSTIR-180レーダー照射されていたとしても、「直ちに対空ミサイル攻撃が予想されるような緊迫した状態であった訳ではなく、外交問題化させることなく、両国の実務レベルで協議して一件落着すれば済む事案であった。」というのが、多くの軍事評論家が示す見解だ。

 

日本側が官邸主導で韓国を挑発的に批判したことによって、両国政府、両国軍事組織、両国国民の間で、相互不信感と敵国意識が強まったのだとしたら、残念なことである。

 

 

(参考)1月21日に防衛省が公開した音声データについて

 

本文中で、筆者は、「自衛隊が公表した音声データを音声編集ソフトによりスペクトログラム解析を行い、STIR-180による信号に合致すると指摘するブログ記事が存在する」と記載した。

 

具体的には、(1)「記憶は人なり」というブログの記事と、(2)自称軍事オタクの「誤字脱字な研究室 @gozidatuzinaLab」氏が、「軍事系まとめブログ」に読者投稿した論考の2つがある。

 

(1)防衛省が公開したレーダー探知音を分析する

https://wave.hatenablog.com/entry/2019/01/22/060500


ミリタリー情報などを綴った「記憶は人なり」というブログにおける記事。同ブログでは、2018年12月22日、23日、31日にもレーダー照射問題にかかる記事が掲載されている。

 

(2)「めちゃくちゃすごい音」の意味するところとは?韓国駆逐艦レーダー照射事案、公開された音声を解読する。

http://gunji.blog.jp/archives/1073635147.html


F-35は素晴らしい戦闘機であることを知らしめたい自称軍事オタクの「誤字脱字な研究室 @gozidatuzinaLab」氏が、「軍事系まとめブログ」に読者投稿した論考。

 

これらの解析結果を前提とすれば、「STIR-180レーダー波が照射されたことは紛れもない事実であると思われる」と本文執筆時点では考えていたが、先ほど、「一般社団法人日本戦略研究フォーラム」のブログに掲載された西村金一氏の「レーダー波照射音の公開は、韓国に弁明の機会を与えただけだ」https://blogos.com/article/352685/という記事を目にした。


西村金一氏といえば、自衛隊出身で防衛省情報分析官、幹部学校戦略教官などを歴任した右派の軍事評論家である。今回のレーダー照射問題については、韓国の警備救難艦が救助していた遭難船は漁船ではなく北朝鮮の特殊工作船であり、その工作船に韓国が燃料を提供していた事実を隠蔽したいがために自衛隊哨戒機にレーダー照射が行われたのだ、との主張をメディア等で展開している。

 

そんな西村金一氏が、驚くべきことに、1月21日に防衛省が公開した音声データはSTIR-180レーダー照射がなされた決定的証拠にはならない、と、むしろ韓国政府が喜ぶような主張をしているではないか。西村氏によれば、パルス信号の詳細なデータを開示しなければ、レーダー照射がなされた絶対的証拠にならないらしい。

 

う~ん、ますます謎が深まるばかりだ。

 

 

 

【本ブログにおける関連記事】

・軍事評論家は、日韓レーダー照射問題をどう論じたか
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/06/235000

・日韓レーダー照射問題はメディア・リテラシークリティカル・シンキング好材料である
 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2019/02/08/235500

人命救助を妨げる困ったちゃん イーロン・マスクの愚行

 

f:id:syakai-no-mado:20180717224829j:plainテスラCEOのマスク氏がタイに送ったブツ

 

 

本ブログでは、このところ、今般の西日本豪雨に関連して、人命救助や被災者支援の課題について取り上げてきた。今回は、わが国ではなく、タイでの洞窟閉じ込め事件を巡る話題である。

 

わが国のマスメディアではほとんど取り上げられていないが、米国や英国では、先般のタイで子ども達13名が洞窟に閉じ込められた事件を巡って、テスラ・モーターズや民間宇宙企業スペース・エックスの最高経営責任者(CEO)を務めるイーロン・マスク氏の言動が、大きな話題となっている。

 

イーロン・マスク氏については、カリスマ的経営者として絶賛されることがある一方で、ハッタリ野郎、ペテン師、目立ちたがり屋、独裁者、激昂型性格などと評され強烈な個性の持ち主であることが知られている。

 

南アフリカ共和国で生まれ、その後渡米したマスク氏は、ペンシルバニア大学で物理学と経済学の学位を得て、スタンフォード大学大学院に進学するも、2日で辞めてITベンチャーを起業。その後、いくつかの企業の起業と売却を繰り返し、約170億円の個人資産で、2002年にスペース・エックス社を創業。2008年には、テスラのCEOに就任した。

 

マスク氏の行動原理というかミッションは、「人類救済」らしい。環境破壊や石油資源の枯渇により、人類は滅亡の危機に瀕しており、人類位が生き延びるためには、火星に移住するしかない。スペース・エックス社とテスラはそのための企業だという。

 

誰もが、ただのホラ吹きだと当初は小馬鹿にしていたが、スペース・エックス社のロケットの打ち上げが成功を重ね、テスラもEV(電気自動車)がモデルSの開発・販売で躍進し、マスク氏は時代の寵児としてもてはやされるようになった。

 

しかし、本年に入って、テスラの経営に陰りがみられるようになった。手軽な価格帯のEV社「モデル3」の量産化につまづき、週5000台生産という目標達成に向け、マスク氏自身が工場に乗り込んで社員を恫喝する日々が続いている。

 

そんなマスク氏であるが、タイのタルムアン洞窟に閉じ込められた少年たちのニュースを耳にし、スペース・エックスのロケット「Falcon 9」の「液体酸素移送管」を改造し、潜水艇として利用できるようにした「脱出ポッド」を製作したことをツイートで明らかにした。このポッドは直径が31センチほどで、「2人のダイバーがけん引できるほど軽量で、狭い隙間を通り抜けられるほど小さく」また「極めて頑丈だ」と述べている。7月8日のツイートでは、ダイバーたちがロサンゼルスの高校のプールでこのポッドをテストしている映像を公開している。

 

マスク氏は、その後のツイートで、この小型の潜水ポッドをタイに届けたことを明らかにした。同氏は(このポッドが)「役に立つことを期待している。もし役立たなかったとしても、将来何かの時に使えるだろう」と述べた。実際、救助活動に、マスク氏の潜水ポッドが使用されることは無かったが、マスク氏は自国に引き上げることなく、現地に潜水ポッドを残していく方針のようだ。

 

マスク氏のこの行為に憤ったのが、少年たちの救出作戦で重要な役割を果たした英国人ダイバーのバーノン・アンズワース(Vernon Unsworth)氏である。アンズワース氏は、CNNのインタビューで、マスク氏の小型潜水ポッドが、全く使い物もならないと指摘した上で、「PR目的のスタンドプレイ」だとして非難したのである。

 

それにかみついたのが、当のマスク氏。米国時間7月15日のツイートでアンズワース氏を「小児性愛者」と罵倒した。さらに、その後のツイートで、「何なら賭けてもいいよ、本当のことだ」とした。どちらのツイートも既に削除されているようだが、マスク氏がEV生産という大局を見失っているとの懸念が広がり、テスラ株は2.75%下げ、時価総額でほぼ20億ドルを失うハメになったようだ。

 

災害や危機が発生した際には、山師・ペテン師の類が、色々な技術を売り込みに来ることは日常茶飯の風景だ。厄介なのは、社会的発言力、影響力の強い人間が、売名行為として、科学的・技術的には明らかに妥当性を欠き有害無益な自らの技術や見解に固執することだ。時に、メディアが、この不毛な技術や見解を支持し、当局が振り回され、迅速な対応に支障を来すこともある。マスク氏の潜水ポッドはその典型例といっていいだろう。人命救助の現場では最も迷惑な行為である。

 

被災者支援と称し、売名と自己顕示欲から迷惑をかけている困ったちゃん、日本にもいるよね。先日のブログで取り上げた、某球団の買収に名乗り出ている新興通販企業の社長。全国紙などでも取り上げられ、いい宣伝効果になったとほくそんでいるに違いない。

被災者支援ボランティアへの問い お前、なんぼのもんじゃい? 

f:id:syakai-no-mado:20180715014103j:plain

全く無益なド素人によるボランティア活動

 

 

ブログ主は、今般の西日本豪雨に関連し、

7月10日に、

豪雨被災を巡る、愚かな倉敷市長発言と、愚かな朝日新聞・小沢邦男記者の記事

7月11日に、

豪雨被災を巡る、倉敷市長の愚かな発言と、朝日新聞・小沢記者の愚かな記事の顛末

7月13日に、

被災者支援、迅速な救命救助を妨げる10の迷惑行為

という3つの記事を書いた。

 

今回も、引き続き西日本豪雨関連の記事として、ボランティア活動について触れることとする。

 

 

7月14日から3連休が始まり、被災地には、ボランティアと称する「烏合(ウゴウ)の衆」が大挙して押しかけているようだ。烏合の衆が大挙して押しかける、という表現自体に、ブログ主が、ボランティア活動について極めてネガティブな印象を持っていることが理解いただけると思う。

 

ただ、誤解していただきたくないのは、ブログ主としては、必ずしも、ありとあらゆるボランティアを否定するものでは決してない。被災地又はその周辺地域に居住し現地の地理的状況や地域特性をある程度理解した近隣住民が、相互扶助、互助の精神に基づいて避難生活者に対し支援活動を行うことは肯定的に受け止めている。また、各種専門的なスキルを有するスペシャリストが、ボランティアとして遠方から支援に駆けつけることも、非常に賞賛すべきことである。

 

問題は、ロクな専門的技能を有しないド素人で、地理的に遠く離れた場所から被災地に乗り込み、日帰りか、せいぜい2~3日だけ現地に滞在して去っていくだけの、にわかボランティアの連中だ。彼らは、自らの行動が、善意からの奉仕の精神に基づく公共的・公益的な利他活動であると思い込んでいるようであるが、現実は、被災者への緊急対応や本格的な復興活動を阻害する自己チュウで独りよがりの愚行に過ぎない。

 

関西弁に、「お前、なんぼのもんじゃい?」という表現があるらしい。「なんぼ」とは、「値段はいくらか」「金銭的価値はどの程度か」という意味であり、知人は、これを「How much are you?」と英訳していた。ともあれ、標準語では「あなたは、どれだけの価値がある人間なのか」ということだ。

 

で、だ。ボランティア志願者に、この問うてやりたい。「お前、なんぼのもんじゃい?」と。

 

西日本で豪雨が続く同じ時期に、タイのチェンライでは、洞窟の中に2週間以上閉じ込められた13人の少年に対する決死の救出作戦が展開されていた。洞窟内で英雄的な救出作業に直接従事したのはタイ海軍の特殊部隊に加え、世界中からボランティアで集まったプロのダイバー達である。その一人、オーストラリアの医師でありダイバーでもあるリチャード・ハリス氏は、洞窟の奥深くまで潜水して少年たちを診察し、救出に耐えることができるかの判断に貢献したことが世界中に知れわたった。

 

ブログ主が主張したいことは明らかだと思うが、災害の現場で必要とされるボランティアとは、プロであってアマチュアではない。リチャード・ハリス医師のようなスーパーマンでなくても、何かしの技能を持つスペシャリストでないと、遠方から被災者に駆けつける意味など全くない。

 

ガレキ撤去もナメてはいけない。安全で効率的に作業をするには、高度な職人芸が必要である。にわかボランティアが作業に従事したところで、効率は悪いし、怪我や熱中症、あるいは作業を投げ出すリスクもあるので、危なっかしい厄介者なのだ。被災地の行政は、ホンネでは、ガレキ撤去の作業にボランティアなど全く求めていない。解体作業や廃棄物処理の専門業者に有償で作業発注したほうが、よほど安全で確実だから、である。

 

知り合いの大学教授(工学部)は、3.11の後、ボランティアとして震災現場に赴きたいと休校を申し出た学生にこう諭したそうだ。「君たちが現地に行って、何ができるというのだ。現地で足手まといになるだけだ。被災者を手助けしたいという気持ちがあるのであれば、君たちが今やるべきことは、現地に行くのではなく、将来同様の震災が発生したときに、被害が拡大しないよう防災・減災の観点から強靭な都市構造を構築するにはどうすべきか、一生懸命勉強することだ」と。看護学の教授からも同様に、ボランティアに行きたいと申し出た看護学生に対し、「今、君たちが現地に行っても何の役にも立たないよ。それよりは、将来、災害現場で役に立つエキスパート・ナースになれるように、今は学生の本分として勉学に励みなさい」と諌めたと聞いた。全く持って正論だ。

 

だいたい世論は、被災地に赴く大学生に寛大、というか賞賛する傾向にあるが、ナンセンスなんだよ。「人助けをしたい」などと称してボランティアを志願する学生なんて、自己満足の偽善者に過ぎぬ。中には、全く別の動機で被災地に向かう学生も少なくない。アイデンティティ・クライシス状態の中で、半ば現実逃避的な「自分探し」「自己啓発」を一義的な目的とした被災地入り。あるいは、単なる野次馬的な物見遊山、体験型アトラクション感覚での被災地入り。あるいは、異性との出会いを目的とした被災地入り。「ボランティアに出向く人(異性)は、きっと正義感や思いやりの強い人に違いない。そんな素敵な男性(女性)を彼氏(彼女)にしたい。いい出会いがあるかな。ドキドキ、ワクワク。」てな感じで。

 

ともあれ、これら利己的のニセ・ボランティアの方が、「人助けをしたい」などと正義感や利他性を振りかざしつつ、自らが被災地で迷惑をまき散らしていることに無自覚な連中よりは、よっぽど健全のように思えてしまう。

 

最後に、

このブログ記事の読者からは、次のような問いかけが聞こえてきそうだ。

高邁なボランティア志願者に「お前、なんぼのもんじゃい?」とディスっているお前こそ、いったい、なんぼのもんじゃい、と。