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女性記者セクハラ被害事件簿 第20号(SKE48須田亜香里も言及して話題となった事例)

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 女性記者のセクハラ被害とSKE48の須田亜香里と何が関係あるのか、と疑問を持つ読者もいるかも知れない。その理由をご存知の方も多いと思うが、後ほど触れることとして、まずは事案の説明から。

 

 【加害者】岩手県岩泉町の伊達勝身町長(74歳)

 

【被害者】岩手日報の20代の女性記者

 

【明るみに出たきっけ】

岩手日報』が2017年12月6日朝刊で報道した

 

【事案の概要】

県都盛岡市に北東方向で隣接し、本州一面積が広い町として知られる岩手県岩泉町。同町は、2016年8月30日、岩手に上陸した台風10号の豪雨災害により、20名を超える犠牲を出すなど甚大な被害を受けた。災害復興が急ピッチで進められるさなかに事件は発生した。

 

岩泉町の伊達町長は、2017年10月中旬の早朝、岩手日報の女性記者が取材目的で宿泊していた町内のホテルを訪ね、何度もヘアのドアをノックした。記者が開けると部屋に入り、抱きついて複数回キスするなどのわいせつ行為に及んだ。この女性記者は精神的ショックを受けて、休職した

 

日刊ゲンダイの記事に、地元関係者の発言が載っているので引用する。

 

「女性記者は岩泉から離れた支局勤務で、町議会があると取材に来ていました。その日は議会は開かれていなかったため、何の取材で来たのかは分かりません。宿泊したホテルは朝風呂をやっていて、朝5時30分から営業しています。朝6時でも、宿泊客以外の客の出入りがあります。女性記者は20代に見えるかわいらしい感じの方で、前夜も伊達町長ら4、5人と会食していましたよ。随分、遅い時間にホテルに戻ったそうです」

 

 一方で、加害者側の伊達町長も、わいせつ行為に及んだ後、10月25日からPTSDを理由に入院し、公務に復帰したのは12月5日である。

 

町長の公務復帰前日の4日に、岩和町では、伊達町長の本件わいせつ行為に関する怪文書が町議会議員宛に撒かれた。その怪文書には、町長が示談金500万円で事件を隠蔽しようと工作した、入院理由がPTSDというのは嘘で、わいせつ行為の発覚を恐れての雲隠れである、などと記載されていた。

 

同6日、岩手日報は朝刊の1面で、「岩泉町長が辞職へ」との見出しの記事で同社の女性記者が伊達町長からわいせつ行為を受けたと報道するとともに、同日11時から、専務取締役と総務局長が一連の経緯等について記者会見を行った。

 

「問題の性質を考慮して慎重に対応してきたが、岩泉町内などで一部事実と異なる文書が出回り、さまざまな憶測も出始めていることから報道に踏み切った。今後も誠実な対応を求める。」

 

岩手日報社が出回っていると指摘する文書とは例の怪文書のことであり、示談金500万円が支払われたかのような記載は事実無根であり、看過できない虚偽情報だとして問題視して、自社の紙面での報道に踏み切ったようだ。

 

会見で同社は、事案発生後のいきさつを次のように説明した。女性記者の訴えを受けた同社幹部が、事案が起きた約1週間後、盛岡市内で伊達氏と面会し抗議したところ、抱きついたことだけは認めて謝罪したが、キスとわいせつ目的については否定。同社が謝罪文の提出を求めたが拒否。双方が代理人を立てて協議している最中に怪文書が出回り、同社は態度を硬化。示談交渉には応じず、刑事告訴も検討している旨を会見で表明し、「町長には、謝罪と公人としての誠実な対応を求める」とのコメントを出した。

 

【顛末】

岩手日報の紙面で報じられた12月6日の夕方、町役場に集まった報道陣を前に、伊達町長はぶらさがり取材に応じた。

 

町長の説明では、女性記者とは取材を通じて以前から知り合いで、10月に取材に応じた後、ホテルで複数人で会食したという。翌朝、自宅で顔を洗っている時に「助けて」という記者の声が聞こえてきた。前の日に会食した女性記者が連れて行かれる幻聴に襲われ、彼女を助けるために、宿泊先のホテルに向かった。宿泊している部屋を確認して記者に電話し、部屋のドアを開けた記者を見て「ほっとしてハグしてしまった」という。

 

伊達町長は、台風10号の豪雨災害の直後から激務と心労で眠れない生活が続いており、2017年2月、PTSDと診断された。災害から1年が過ぎた9月以降、幻聴や幻覚が激しくなったという。伊達町長は一連の行為をPTSDの影響によるものと強調し、女性記者に抱きついたことについて「病とは言え、社会通念上、許される行為ではない」と謝罪した。

 

女性記者に対する思いを問われた町長は、「早朝に自分自身は助けに行ったつもりがあっても、やはり、驚いたと思います。たぶん、すごい形相で走っていったと思うし、息づかいも荒かったと思います。大変な恐怖を持ったと思いますし、はなはだ迷惑だったと思う。心からおわび申し上げたい」と陳謝した。

 

女性記者がキスされたと訴えている点では「私にはそういう認識はない」と否定。わいせつ目的ではなく「迷惑行為だった」と繰り返した。出処進退について問われると、「辞職を含めて周囲と協議する」と明言を避けた。

 

結局、町長は8日、町議会に9日付の辞職を申し出て、全会一致で承認された。

 

岩泉町によると、一連の報道を受け、町には6日から8日までの3日間に全国から約100件の電話や50件以上のメールが寄せられ、ほとんどが町長の辞職を促す内容だったという。

 

 

【本件の余波】

今回のケースは、PTSDによる幻聴、幻覚を訴える70代の禿げた爺さん町長が、「助けて」という幻聴に導かれたと主張して女性記者に接近し、抱きついたり、キスなどの行為に及んだ、というネタとしての面白さから、当時、ワイドショーなどでも取り上げられて話題となった。

 

SKE48の須田亜香里は12月10日、TBS系「サンデー・ジャポン」に出演、岩泉元町長によるわいせつ事件を扱ったニュースの中で、自身も、高校時代に全く同じ被害に遭っていた事実をカミングアウトした。

 

須藤は「高校生の頃におじさんに道案内を頼まれて、最後にありがとうと握手を求められて握手をしたら引き寄せられてキスをされたことがあって…」と過去のわいせつ被害を告白。「怖くて硬直して動けなくて、今でも腕を強く引っ張られたりすると、たまに涙がでちゃう時もあるくらい、本当に怖い」との心の傷の深さを明かした。

 

その上で、「今はノックの音を聞くだけでも怖いと思う」「休職しても無理はない」と被害にあった女性記者を思いやった。

 

今回の記事の冒頭で、須田亜香里の写真を掲載したのは、この発言ゆえである。

 

一方、AKB48の指原莉乃は12月17日、フジテレビ系『ワイドナショー』に出演。出演メンバーは、指原ほか松本人志東野幸治古市憲寿と、いずれも安部総理の「飯友」で、「御用タレント」と指摘される面々である。岩泉の伊達町長、それから同じ時期、職員へのセクハラが発覚した福井県あわら村長の2つの事例を取り上げた際、指原は、次のようにコメントした。

 

「もちろん女性が被害に遭うことに違いないし、絶対あってはいけないことだと思うんですけど。でも立て続けにこうなると、市長さんとか町長さんだと、よく思っていない人も多いじゃないですか。だからハニートラップの可能性も今後増えてくるかもしれないじゃないですか」

 

さらに指原は、自身がセクハラやパワハラの被害にあったことはないかと問われ、「本当にないです。言われたことないですし、まわりもたぶんない」と答えた。その上で、橋本市長のセクハラが女性が運転する車の中で起こったことに触れ、「ドライブに行ってるわけじゃないですか」と、女性の落ち度をあげつらうようなコメントをした。

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安部総理から「政治家に向いている」とベタ褒めされ、空気を読むことに秀でた才能を持つ指原のこれらの発言については、セクハラ被害を受けた女性を貶めるもので、セカンドレイプとも言える悪質なものだとの批判もなされた。

  

【ブログ主のコメント】

 今回で女性記者セクハラ被害事件簿も20回を数えることになる。ところで、今更ながらであるが、そもそもセクハラって何だろう。折しも5月18日に政府が、衆議院逢坂誠二議員からの質問主意書に対し、「現行法令において『セクハラ罪』という罪は存在しない」とする答弁書閣議決定したことが物議を醸しているところでもある。セクハラは接触型と非接触型に大別できるようであるが、性的関係の強要(レイプ)から、「お姉ちゃん、お茶(お願い)」「これ、セクハラ!」の類の会話に至るまで、非常に幅の広い言動に対して、セクハラの語が日常用語として軽く用いられている。

 

でも、これらピンからキリまでの諸行為を、セクハラの一言で包含するのは、重大な性犯罪行為をむしろ矮小化することにつながりはしないだろうか。もちろん、男性の潜在的女性差別意識に基づく女性蔑視的発言を問題視し、潜在的女性差別意識を解消するための社会運動の必要性も理解できる。重大な性犯罪行為も根源的には、加害男性の潜在的女性差別意識に起因していると言えなくもない。

 

だけど、性的関係の強要、尻や胸をさわる、抱きつく、キスするなどの接触型行為は、強制性交等罪や強制わいせつ罪等に該当する重大な性犯罪である。重大な性犯罪だという社会的認識を高めるためにも、これらの行為には、ある種薄っぺらい日常用語である「セクハラ」の語を安易に用いない方がいいのかも知れない。この意味において、「セクシャル・ハラスメントが刑法等の刑罰法令に該当する場合には犯罪が成立し得るが、その場合に成立する罪は、当該刑罰法令に規定された強制わいせつ等の罪であり、『セクハラ罪』ではない」という逢坂議員の質問に対する政府の答弁は正鵠を射た指摘ともいえるだろう。

 

女性記者セクハラ被害事件簿における20回の連載の中で、わいせつ行為が原因で休職に追い込まれた女性記者が、第6号広島県警署長からの被害)、第13号長崎県警捜査2課長からの被害)、第14号長崎市の部長からの被害)、第16号(甲子園強豪校の監督と選手からの被害)、そして今回第20号の5件で計6人も存在する。また、わいせつ行為を受けた後に、それだけが原因ではないと思われるが、退社に至った女性記者も第3号石川県警巡査部長からの被害)、第7号(社の先輩からの被害)のケースで2人いる。

 

「たかだかちょっとしたセクハラを受けたぐらいで休職するようなウブでヤワな小娘に、記者など勤まらない。プロとして失格だ。」おそらく、マスコミの世界では、このような価値観が今なお支配的であろう。

 

確かに、女性記者の中には、わいせつ行為を受けないよう回避する能力が高かったり、わいせつ行為を受けてもメゲない人も確かに存在する。とは言え、須田亜香里が訴えるように、多くの女性にとって、わいせつ行為は、長年にわたって癒えない傷になりうる重大な問題なのである。

 

マスコミの産業構造上、女性記者が取材相手などからわいせつ行為の被害を受けるリスクが非常に高いことに鑑み、若手女性記者に対し、わいせつ被害を回避・防御する能力を高めるための研修制度を充実させることも重要ではないか。

 

次に、本件に係る別の論点として、地方公共団体と地元紙の特別な関係について付記しておく。女性記者セクハラ被害事件簿第2号において、県警と地元紙が、持ちつ持たれつ、の共存関係にあることを紹介したが、同じ構図が、都道府県知事や市町村長、あるいは地方公共団体と地元紙との関係にも当てはまる。

 

自治体は、全国紙によりも優先して地元紙に手厚く情報を提供し、その見返りとして「提灯記事」を書いてもらい、行政に対する批判記事を回避する。また、地元紙は概して現職知事や市町村長と良好な関係を構築・維持し、首長と地元紙幹部は日頃から非公式に、地元の政財界に関する機密情報の交換を密に行い、地元権力基盤をより強固なものとする。

 

他方、地元紙としても地元政財界に対する発言力を維持し、販売部数獲得、広告収入強化につなげるという共存共栄関係にあるのだ。(さらに余談であるが、県庁や市町村がらみの談合など不正を耳にした住民や内部告発者が、社会正義の観点から地元紙に内々に情報提供した時に、地元紙が行政に密告し、情報提供者が不利益を蒙ってしまう恐ろしい実態もある。)

 

通常、首長と地元紙の力関係は、相対的に前者が優位の関係にあるが、時として両者の力関係が逆転し、地元紙が首長を「支配」する状態が生じることがある。地元紙に牙を向けると、首長は政治生命を絶たれることもあるのだ。

 

最近では、新潟県泉田裕彦前知事が、地元紙新潟日報との対立の末、日報による執拗なネガティブキャンペーンによって退陣に追いやられ、同様に、鹿児島県の伊藤祐一郎前知事が、地元紙南日本新聞の機嫌を損ね、同社に潰されたことは有名である。

 

このように、知事でさえ手のひらで転がすことを物ともしない県内の絶対権力者たる地元紙にとって、たかだか人口1万程度の田舎町長の息の根を止めることなど朝飯前である。で、今回のケースであるが、岩手日報の幹部はヤクザの親分よろしく伊達町長に対し、「うちの可愛い娘を傷ものにしやがって、ごめんなさいで済むと思うな。オマエの命で落とし前をつけろ」と退陣を迫り、刀ではなくペンでもってか弱き町長を切り刻んだのである。

 

否、切り刻んだ、というより、自死に追いやったというのが正確な表現だ。12月6日の時点では、町長は辞任を明確に表明していないにも関わらず、1面肩で「伊達岩泉町長が辞任へ」という大きな見出しを掲げ、町長を辞任に追いこんだのである。地元紙、恐るべし。

 

最後に断っておくが、筆者として、伊達町長をかばったり、岩手日報を貶める意図は全くない。なんと言っても非があるのは町長であって、社員が休職に追い込まれたことに厳重抗議した岩手日報の対応は正当なものである。ただし、今回の顛末の後背には、性的トラブルに係る男女の力関係の問題に加えて、地元紙と地元首長の力関係という別の社会構造問題の存在についても銘記しておくべきである、というのが筆者の見解である。

 

福田事務次官財務省に抗議しなかったテレビ朝日はみっともない、町長に毅然と抗議した立派な岩手日報の爪の垢を煎じて飲むべし、という時評を以前目にしたが、この論者は本質を理解していないのだな、と思えてしまう。

 

【出典】

・2017年12月7日、9日の新聞各紙 ほか 

指原莉乃に関するLITERAの記事

 指原莉乃がセクハラ問題で「ハニートラップの可能性」発言! 男の論理を内面化する指原に聞かせたい、はあちゅうの言葉|LITERA/リテラ

 

【予告】

次回は、女性記者セクハラ被害事件簿の第11号から第20号までの記事の概要まとめを行う予定である。

 

【本ブログ内の関連記事】

・セクハラ、レイプ、不倫が頻発する女性記者という職業

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・女性記者セクハラ被害事件簿 第1号から第10号までの概要

 https://syakai-no-mado.hatenablog.com/entry/2018/05/08/194300

 

・女性記者セクハラ被害事件簿 第16号  

 高校野球強豪、常葉菊川の監督と選手が起こしたセクハラ事件

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・女性記者セクハラ被害事件簿 第6号

 加害者が自殺した二重に悲劇の事例①

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・女性記者セクハラ被害事件簿 第14号 

 加害者が自殺した二重に悲劇の事例②

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